辞任翌日は菅首相のスピーチが…
矛盾を避けるためにはどんなことでもやる!

 小山田氏が辞任した19日の翌日、菅義偉首相がIOC総会でスピーチし、この大会のテーマ「多様性と調和」を訴え、「女性アスリートの割合は過去最高」と胸を張った。そして、「心のバリアフリー精神を世界に発信したい」なんて、キャッチーなスローガンまで披露している。

 もしこの段階で、小山田氏が辞任していなかったらどうか。

「障害者いじめをしていた人間の音楽を開会式で流しておいて、よくそんなことが言えるな」というツッコミが世界中から寄せられ、官邸スタッフが徹夜でつくったスピーチは大スベリしていた恐れもある。この最悪の事態を避けるため、「諸悪の根源」である小山田氏に消えてもらうしかなかった、と永田町の一部ではささやかれているのだ。

 確かに、いかにも官邸が考えそうなことだ。安倍晋三前首相が森友学園問題の追及を受けて発した「私や妻が関係していたら首相や議員も辞める」という国会答弁とつじつまを合わせるため、財務省が書類を改ざんしたことからもわかるだろう。国家中枢にいるエリートたちというのは、首相が発したメッセージの「矛盾」を解消するためならばどんなことでもする。

 そういう意味では、この推測にはまったく同意だが、一方で、官邸がここまで大慌てで火消しに奔走したのは、「首相のメンツ」からさらにもう一歩踏み込んだ、「国家のリスク」も考慮したからではないか、と個人的には考えている。

人権問題に世界から厳しい目
日本の「いじめ」の不都合な真実

 小山田氏が開閉会式の音楽担当というポジションに居座り続けたまま五輪がスタートした場合、「日本の人権意識ってどうなの?」という国際的な批判に発展してしまう可能性が高い。そうなると当然、話題は「障害者いじめ」にとどまらず、日本の人権問題全般へとフォーカスが当たってしまう。

 これは何かとまずい。日本は、多様性や人権関連でいくつか深刻な問題を抱えているからだ。まずひどいのが「男女平等」だ。

 世界経済フォーラム(WEF)が今年3月に発表した2021年版「ジェンダー・ギャップ指数」では、日本は世界156カ国中、120位。G7の中でダントツに低いだけではなく、日本人が何かと「下」に見る韓国(102位)、中国(107位)より男女平等が実現できていない。

「人手不足は低賃金の外国人労働者でスカッと解決!」でお馴染みの「技能実習生」にも海外から厳しい指摘が多い。例えば、今年7月、米国務省は、世界各国の人身売買に関する報告書の中で、日本の技能実習制度を「外国人労働者搾取のために悪用し続けている」と批判し、日本政府に対しても、「最低基準を満たしていない」とダメ出しをしている。

 しかし、これらよりも日本政府が悪目立ちさせたくない問題がある。「いじめ」だ。実はこの分野に関しては、我々日本人の間でもあまり知られていない「不都合な真実」がある。それは「日本でいじめられている子どもたちは、世界と比較して最も“絶望”を感じている」というものだ。