50人以上の死傷者も
解決のカギは国定公園か

 野生のアジアゾウは巨大だ。その高さは、雲南のレンガ造りの農家の軒高ほどにも達する。「体が大きいがゆえに、人間の生活圏に出てくると大きなトラブルに発展してしまいます。同じことはケニアでも起こっています」(中村特任教授)

 実際、雲南のゾウの放浪は農民に被害を与えている。シーサンパンナ州林業草原局(以下、草原局)によれば、2011~2019年に州内で実に4600件を超えるトラブルが発生し、50人を超える負傷者・死亡者を出した。同州は民間の保険会社と契約し、被害に遭った農民へ損害を賠償する体制を整えているが、上記の期間に、農作物の被害面積12万ムー(約80平方キロメートル。1ムー=約666平方メートル)に対して支払われた保険金は1億元(1元=約15.7円、2019年)に上るという。

 近年、現地では「人とゾウの共生」は大きな課題となっており、そのための解決策が講じられてきた。その一つが「観察体制」である。2018年、シーサンパンナ州は280万元(1元=約16.7円、2018年)の資金を投じて「アジアゾウ監視センター」を設立した。これ以外にも、ドローンの導入や赤外線カメラによる夜間観察も行っている。

 さらに、その日のゾウの位置情報を確認できるアプリも開発した。このアプリを利用して、地元民を中心とした約20万人が現在対策を取っている。

 2018年、草原局は4000ムー(約2.6平方キロメートル)に及ぶゾウのための食糧基地を計画した。「ゾウの食堂」という異名を持つプロジェクトは、サトウキビ、バナナ、トウモロコシなどゾウが好むものを積極的に栽培し、アジアゾウを保護区の中にとどめようというものだ。この延長にアジアゾウのための国定公園を造る計画も浮上しており、期待が寄せられている。