リハビリは「活動の医学」
基本的な「活動」の障害を治療する

「何でもあり」というだけあって、大高医師らによる「リハビリテーション医学」の守備範囲はとてつもなく広くなっている。

 たとえば、自動車が関係する交通事故で非常に重い脳損傷を負った患者を受け入れ、事故直後から慢性期までの連続した治療・看護・リハビリについて臨床研究を行う日本初の「意識障害回復センター」では、歩くことはもちろん食事や排便、意思の疎通などがほとんど不可能な状態からの回復を目指し、脳外科手術的な治療から療法士による訓練まで、科学的な根拠に基づく先進的なリハビリが施される。

「われわれが行うのは、社会復帰の可能性を追求しながらの適切な医療です。一般に病院では、ケガや病気の治療が終わって症状が固定化すると、患者さんの意識がなくとも治療終了となります。でも、それで本当に治ったといえるでしょうか。少なくとも患者さんやご家族は困ったままです。歩く、食べる、考えるといった、人の基本的な営みである『活動』の障害を治療し、解決策を示すのがリハビリだと考えます」

 強力な武器は「動くこと自体」だという。

 まず目を引いたのは、パワースーツのような器具を身につけた療法士が意識のない患者を後ろから抱きかかえ、一歩一歩歩かせている姿だった。

「これを繰り返しているうちに、閉じていた目が開いてきたり、飲み込みができるようになったり、少しずつ回復してくることが分かってきました。すごくシンプルに言うと、意識障害の治療は刺激を与えることです。脳外科では、脊髄の硬膜外の電極を入れて刺激を与えるといった治療が以前から行われています。

 でも実は、最も強い刺激は立つことなんですね。重力にあらがい、起き上がらせることが重要です。健常な方でも、寝ていたら覚醒は下がりますよね。逆に起き上がれば上がる。意識の底の深さは無限。ものすごく深い人もいれば、それほどでもない人もいる。起き上がらせる刺激によって、底に沈んでいた意識を少しずつ浮かび上がらせるのです」

 意識障害から回復してくると、次に重要になるのが意思の疎通だ。会話ができない患者からの気持ちのサインを拾い上げるためにAIを用いた表情分析に取り組み、さらにそこで得た成果を認知症のリハビリに生かす研究も進めている。

「要介護になる原因の一番は、以前は脳卒中でしたが今は認知症です。特効薬はまだ開発されていないし、もし開発されたとしても、認知症自体40代、50代から既に始まっている病気だとしたら、いわゆる2040年問題には間に合いません。

家族というシステムに介入する
産学連携で進むロボット活用

 では、リハビリは認知症に対して何ができるのか。

 われわれは家族というシステムに介入することで問題解決を目指したいと考えています。家族の行動変容やストレスマネジメント、社会資源の活用方法等を身につけていただくプログラムを開発し、今、走らせています。病態部分のみに着目するのではなく患者さんと取り巻く環境を一体のシステムとして捉え、『システム的解決』によって、全体をよりよい状態へ導き生活を再建することを目指します」

 最も注目されているのは、ロボットを活用するリハビリだ。

 2015年5月に誕生したリハビリテーションセンターには、歩行支援ロボット『ウェルウォーク』、バランス練習ロボット『ベア』、上肢練習ロボット『ReoGo』『InMotion』など、トヨタ自動車をはじめとするさまざまな企業と産学連携で開発したリハビリテーションロボットが多数設置されている。

「見学にいらした世界的研究者は『ディズニーランドみたい』と感激していました」と大高医師。ただし、同大のリハビリロボットの役割は、夢の世界にいるような錯覚をもたらすことではない。「事故や病によって失われた機能と生活を取り戻す」というリアルな夢の実現を目指し、患者・医師・療法士とチームで取り組む。

「『こんな医者になりたい!』というようなことは考えません。むしろ、人として今の自分には何ができるのかな、ということを常に考えています。

 超高齢化を迎え、暗くなりがちな日本社会において、リハビリテーション医学には社会を明るくする力があると信じています。産官学連携を積極的に図り、この分野を成長・発展させることで、必ずや社会を明るくできるはずです」

(監修/藤田医科大学医学部リハビリテーション医学I講座主任教授 大高洋平)

大高洋平(おおたか・ようへい)
藤田医科大学医学部リハビリテーション医学 I 講座主任教授。
1997年慶應義塾大学医学部卒業。関連施設での勤務を経て、2011年慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室助教(医局長)を務める。2019年9月より藤田医科大学リハビリテーション医学I講座教授に就任(ロボティックスマートホーム・活動支援機器研究実証センター センター長併任)、現在に至る。