営業マンになって数ヵ月たち、僕が壁にぶつかっていた頃のことです。当時は、成績も“ジリ貧”。一件のアポイントの成否に一喜一憂しながら、必死で営業に駆けずり回っていました。
そんなある日、僕は、社会人2年目の金融マンに会うために、都心部のオフィスから、横浜の高級ホテルのラウンジに移動。アポイントは20時半でした。ところが、着席してコーヒーを注文したときに携帯電話が鳴りました。
「すみません、急に飲み会が入ったんで、今日のアポ、キャンセルしてください」
“ドタキャン”です。
営業マンにとってはものすごく大切なアポイントも、お客様にとってはたいして重要なものではありません。だから、“ドタキャン”されることも想定しておかなければならない。常々、そう自分に言い聞かせていましたが、それでも、毎回、“ドタキャン”にはガッカリさせられます。
しかも、相手は社会人2年目の若者。都心からわざわざ横浜までやってきて、一杯1000円を超えるコーヒーも注文したばかり……。正直、腹も立ちます。だけど、いくら腹を立てても、“ドタキャン”という現実は変わらない。だから、僕は、「オモロいやんけ」と口に出して言ってみました。
何がオモロいんやろ?
そう自問すると、「ドタキャンしてくれたから、時間ができた。この時間は、俺に対するプレゼントやな」という考えが浮かびました。
それで、フェイスブックのタイムラインを眺めていると、知人が吉祥寺にある有名な赤身肉屋で食事しているという投稿をしていたので、「これや!」と思いました。
その知人と一緒に焼肉を食べている人たちと親しくなれば仕事につながるかもしれないし、有名店であるそのお店にも行ってみたかった。すぐにラウンジを飛び出して、90分かけてお店に駆けつけたのです(到着したのは22時を過ぎてました)。
“普通じゃないこと”をするから、
興味をもってもらえる
これがよかった。
知人から紹介された店のオーナーに、すごく気に入っていただけたのです。
「なんで来たん?」
「いやぁ、横浜でお客様にドタキャンされたんで来ました」
「お前、いきなり横浜から来たんか? オモロいな、お前」
まぁ、僕は半分やけくそでお店に行ったのですが、たしかに考えてみたら、普通、ドタキャンされて、横浜から90分かけて吉祥寺の焼肉屋には来ません。でも、こんなちょっと“普通じゃないこと”をするだけでも、僕という人間に対して興味をもってもらえるのです。
「お前、関西弁やな? 俺も大阪やけど、お前どこなん?」
「大阪の生野区です」
「なんや、めっちゃ近いやん!」
こんな感じで可愛がっていただけるようになって、「またお店においで。予約は俺に直接でええで」と言っていただけました。いつも予約でいっぱいのそのお店には、行きたくてもなかなか行けるものではありません。にもかかわらず、僕は、オーナーに「特権」を与えていただいたわけです。
こういうとき、僕は素直にすぐそのお店に行きます。
名店の「常連」として認知されるコツは、一時期に集中的にお店に通うことですから、僕は、毎週のように知人を連れてお店に顔を出すようにしました。こうして「常連」として親しくさせていただくうちに、オーナーご自身も僕から保険に入ってくださったうえに、ほかの常連さんを次々にご紹介いただけるようになりました。
しかも、予約の取れないそのお店にお連れすると言うと、なかなかご一緒することのできないような人物とも会食する機会を設けることができます。こうして、僕は、予約ができない名店を舞台に、多くのご縁をつくっていくこともできるようになったのです。