「海抜ゼロメートル地帯」はどうなっている?
東京23区を中心とした地図で、「海抜ゼロメートル地帯(0m未満)」を黒く塗ったものが次の地図です。
これを見ると葛飾区、江戸川区、江東区、墨田区あたりに海抜ゼロメートル地帯が広がっていることがわかります。江戸川区や江東区の「江」とは「入り江」のことであり、葛飾区の「しか」は低い土地を意味しています(諸説あります)。
墨田区は隅田川の左岸に位置しており、同河川との関係性が深い区であり、低湿地に位置しています。そのため、北十間川や横十間川、大横川、竪川といった河川は、かつては水運の役割を果たしていました。まさしく墨田区は「水郷」でした。これらの地名は低地ならではものといえます。
明治時代になると、墨田区は水陸交通の結節点としての「地の利」を活かして工業地域として発展しました。墨田区鐘ヶ淵で創業したことに由来する紡績会社は「鐘紡(カネボウ)」を社名とし、他にも花王やアサヒビール、セイコーの工場などが立地しました。
地名はわれわれに色々なことを教えてくれます。そして、地図を使って手軽に情報を入手することができます。地理院地図を使えば、工夫次第で過去の様子をうかがうこともできるかもしれません。そして、住居をどこに構えるかを決める手がかりにもなります。それは自らの命を繋ぐことでもあるのです。
近年、自然災害が激甚化していると言われることがありますが、日本列島では太古の昔から台風や大雨などは発生していました。もちろん、そこに人が居なければただの気象現象にしかすぎません。つまり、災害が激甚化しやすい場所へと人が誘われているといっても過言ではありません。実際に、水害の多くはハザードマップで示された場所で発生しています。
まずは「自分の命は自分で守る」といった、防災の意識を強くもつことが大事です。決して他人事ではありません。教育現場では防災教育の充実を図っていく必要があります。
地名は色々なことを教えてくれます。そしてそれを記した地図を活用し、防災に役立てることもまた、我々にとって必要なことなのです。
宮路秀作(みやじ・しゅうさく)
代々木ゼミナール地理講師、日本地理学会企画専門委員
鹿児島市出身。「共通テスト地理」から「東大地理」まで、代々木ゼミナールのすべての地理講座を担当する実力派。地理を通して、現代世界の「なぜ?」「どうして?」を解き明かす講義は、9割以上の生徒から「地理を学んでよかった!」と大好評。講義の指針は「地理とは、地球上の理(ことわり)である」。生徒アンケートは、代ゼミ講師1年目の2008年度から全国1位を獲得し続けており、また高校教員向け講座「教員研修セミナー」の講師や模試作成を担当。いまや「代ゼミの地理の顔」。2017年に刊行した『経済は地理から学べ!』はベストセラーとなり、これが「地理学の啓発・普及に貢献した」と評価され、2017年度の日本地理学会賞(社会貢献部門)を受賞。大学教員を中心に創設された「地理学のアウトリーチ研究グループ」にも加わり、2021年より日本地理学会企画専門委員会委員となる。「Yahoo! ニュース」での連載やラジオ出演、YouTubeチャンネルの運営など幅広く活動。
「土地と資源の奪い合い」から、経済が見える!
経済を動かしているのは地理である。
世界の経済情報を観察していると、そう思えることが多々あります。
なぜ、土地も資源もない日本が経済大国になれたのか?
なぜ、中国は2015年に一人っ子政策をやめたのか?
なぜ、トランプ大統領はTPPから離脱したのか?
これらの因果関係を解明するヒントは「地理」に隠されています。
地理とは、地形や気候といった自然環境を学ぶだけの学問ではありません。農業や工業、貿易、交通、人口、宗教、言語、村落・都市にいたるまで、現代世界で目にする「ありとあらゆる分野」を学びます。
「地理」を英訳すると「Geography」です。これはラテン語の「Geo(地域)」と「Graphia(描く)」からなる合成語といわれています。
現代においては、写真を1枚撮るだけで、自然はもちろんのこと、そこで暮らす人々の衣食住、土地利用など、実にさまざまな情報が写し出されます。
しかし、カメラが存在していなかった時代は、これらの情報をすべて描き出していたのです。まさしく「Geo(地域)」を「Graphia(描く)」。これが地理の本質なのです。
地理とは、表面的な事実の羅列ではありません。「地域」に展開するさまざまな情報を集め、分析し、その独自性を解明するものです。地理を学ぶことで、土地と資源の奪い合いで示される人間の行動に、より深い解釈を加えることが可能です。
仕事に効く「教養としての地理」
本書『経済は地理から学べ!』は、「立地」「資源」「貿易」「人口」「文化」という5つの切り口から、今と、そして未来をつかむための視点を提供します。
地理では、さまざまな要素がかかわり合って「物語」が成り立つことを「景観(けいかん)」といいます。現代世界を単なる出来事として頭に残すのではなく、「誰かに話したくなる」ような、背景知識を持っているだけで世界は面白くなります。
本書を通して、世界の「今」を見定め、そして「未来」を先取りしてください。
『経済は地理から学べ!』
6万部突破のベストセラー!
「立地、資源、貿易、人口、文化」を知れば、世界はこんなに面白い!
★トランプのTPP離脱を読むカギは“国境”
★日本経済を秘かに支える“水の力”とは?
★EU経済の急所は“2つの河”にあり
地理とは、地形や気候といった自然環境を
学ぶだけの学問ではありません。
農業や工業、貿易、流通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問なのです。
地理という“レンズ”を通せば、ダイナミックな経済の動きを、手に取るように理解できます。
【目次】
序章 経済をつかむ「地理の視点」
第1章 立地:地の利を活かした経済戦略
第2章 資源:資源大国は声が大きい
第3章 貿易:世界中で行われている「駆け引き」とは?
第4章 人口:未来予測の最強ファクター
第5章 文化:衣食住の地域性はなぜ成り立つのか?
特別付録「背景がわかれば、統計は面白い」
地図で読み解く44の視点
地理がわかれば、世界はもっと面白い!