働き方が住む場所を変える

 産休・育休だけでなく、高齢化社会では介護により会社に来られなくなる人も増えている。とはいえ、これまでの仕事の実績はあり、時間さえ取れれば仕事は進むことになる。

 しかし、通勤や会社での拘束時間が柔軟に取れない場合、仕事がしにくい状況になる。それでも、リモートワークは場所と時間の制約を飛び越えることができる。そこには労働力を有効活用するシナリオが描ける。

 働き方の多様性は、通勤という方法を必ずしも必要としない。その結果として今、賃貸住宅の需給バランスはワンルームが大きく崩れ、1DKや1LDKの家賃が上昇している。

 これはリモート対策で、オン(仕事)とオフ(プライベート)の部屋を分けたいニーズから来ている。このため、面積が大きくなった分、郊外や駅から遠くの立地へのシフトが起きている。同じ予算で条件が変わってきたのだ。これまでは週5日通勤することから、都心寄りで駅近ニーズが圧倒的だったのに対して、真逆なトレンドである。

 もっと大きなトレンドは、東京から脱出する人の増大だ。コロナ前の2019年とコロナ後の2020年の都区部の流出入人口を調べると、その劇的な変化が分かる。

 流入は実は2020年の方が多い。それは新卒での流入が突出して多いからで、この人たちの就活はコロナ前に行われ、有効求人倍率が約2倍あった時の結果である。

 一方、流出はコロナ後6.4万人も増えている。こうして都区部の流入超過人口は7万人から1.3万人に減少している。直近12カ月では既にマイナス、つまり流出超過となっている。人の流入で潤ってきた東京だけに、その根本を揺るがす大きな問題である。

 コロナ禍では、鉄道の乗降客数は軒並み減っている。通勤だけでなく、新幹線の乗客は前年比で3分の1だ。先日ウェブ会議をした人は、グリーン車の車内からからで「誰もいないから大丈夫です」と言うほどガラガラだった。通勤電車も便数を間引きするようになったが、それは東日本大震災の計画停電時以来の話だ。

 緊急事態宣言下なので、通常時になったら乗降客数は相当数戻るのだろう。しかし、今回の鉄道の延伸計画は効果が小さい。有楽町線延伸の効果は東西線の混雑緩和程度で、南北線に至っては品川駅へのアクセス改善だけだ。

 それに、合計3100億円の建設費がかかり、その半分を税金で賄うということは、都民1人当たり約1万円負担してくれということだ。乗りもしない沿線の費用は気分が悪い。一家4人なら世帯で4万円をこの計画に支払ってくれというのを都民で投票したら、反対票多数になりそうだ。