「朝令暮改」は現場を仕切る
中間管理職にとって難しい
しかしながら、経営者が朝令暮改の重要性を理解しても、現場では大変な軋轢を生む。とくに、変更の指示を出す現場の管理職は社員から相当強い反発を受けてしまうからだ。すでに大変な変更をいま実施したのに、なぜそれを変えなければならないのか。変更するために私がどれだけ無理を言って周囲の人にお願いしたか、あなたは知っているのか、と。それでも管理職はどうにか対応しなければならない。
よくある説得の方法は以下の3つである。
1.上が決めたことだから仕方がないでしょ。
典型的な“安易”な説得のパターンである。「私に聞くな、私だって困っているんだ。社長が決めたのだ。文句があるなら社長に言え!」
こういう説得が価値を持つ会社もある。過去、社長の行ってきた意思決定が成功し、変更の経緯はわからないが、社長にはお考えがあり、言われた通りやっていれば成功するだろうと社員が心から思える会社である。しかしながら、そのような神通力がいつも通じるわけはない。社長の言った通りにやって成功しないことが一度でもあれば、そういった信用は確実に失われる。
2.特定の現象に理由をひもづける
変更の理由となったものの中から、目立つ事情の一つをピックアップし、そのことによって変更が必要となったという理由づけをする方法である。たとえば、コロナで状況が変わった、DX推進に全社的に取り組むことになった、事業の選択と集中の方針が固められた……。ロジカルな整合性はなくとも、それらしい理由があれば、人はとりあえず納得し、社員として従わなければならない雰囲気にはなる。
ただ、ほとんどの場合、ここで持ち出された理由はその場しのぎのお題目であって、本質的な理由ではないため、論理性を大事にする頭の良い部下からは全く評価されずに信用を失う。
3.全体の構造を説明する
外部環境と内部状況がどう変化し、それを会社はどのように認識しているか。それにしたがって、選択肢の幅、判断基準の指標、最終的な意思決定がそれぞれどう変化したか。こうした意思決定の構造の全体像が、社長メッセージとして詳しく語られる会社で、かつ、中間管理職がそれを読み込んで理解し、現場の状況に落とし込んだ形で説明できるなら、部下も納得がいくだろう。
ただし、そのためには、まず経営者自らが意思決定の構造に自覚的で、それに沿って明確な説明ができ、現場の管理職も業界動向や自社の方向性、強み弱みなどを構造的に把握していなければならない。ほとんどの場合、そのような説明を試みても途中でしどろもどろになって、部下から「意味がわかりません」と突っぱねられるだけである。
意思決定を変えるなら
納得できる説明が不可欠
上記の1~3の中では、ロジカルには3がベストである。しかしながら、理解も説明も大変難しいため、よほど自信のある管理職でなければ、この方法をとることはない。だいたい1か2でお茶を濁す。2はそもそもはしょりすぎていて説得力がない。1は決定者への信頼いかんであり、社員の意思決定者への信頼がよほど大きくない限り、やはり説得力がない。結局、多くの場合、説明は理解されず、納得もされない。