弱い立場の人々が「大きなパワー」に対抗した

 このムーブメントのきっかけとなったのは、ハリウッドでの権力を笠に着て女優に性的暴行を繰り返していた大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインに対する告発でしたが、この後、フランスでは加害者が実名を挙げて糾弾され、イタリアでは被害体験を告白するツイートが相次ぎ、米国連邦議会の女性議員たちは男性議員から受けたセクシャルハラスメントを告白し、英国ではハラスメント疑惑を受けたマイケル・ファロン国防相が辞任に追い込まれました。

 かつては泣き寝入りするしかなかった、弱い立場にある人々がテクノロジーを用いて繋がることで「大きなパワー」に対抗する力を持ったのです。これは「パワーの弱体化」がもたらす功的側面と言えるでしょう。

パワーが弱まると組織の崩壊を避けられる

 パワーの弱体化がもたらす「功」の2点目は、システム全体の崩壊=カタストロフを避けられる確率が高まる、ということです。現在、世界は極めて複雑で予測の難しい状況、いわゆるVUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)になっています。

 このような世界において、大きな権力を有するごく一部の人々だけが意思決定するというのはシステムとして非常に脆弱です。なぜなら、状況の不確実性が高まれば高まるほど、そこに関わる人がフラットな関係でコミュニケーションをすることが必須になるからです。これをわかりやすく示しているのが航空機における事故統計です。

副操縦士よりも機長の方が墜落事故を起こしやすい

 通常、旅客機では機長と副操縦士が職務を分担してフライトします。もちろん、一般的には操縦技術や状況判断能力の面で機長の方が副操縦士より格段に優れています。しかし、過去の航空機事故の例を見れば、機長自身が操縦桿を握っている時の方が、はるかに墜落事故が起こりやすいことがわかっています。

 なぜか?機長が操縦桿を握っている時には、副操縦士が意思決定に参加しなくなるからです。

権力が偏在化すると意思決定の品質が劣化する

 コックピット内で、よりクオリティの高い意思決定を行おうとした場合、お互いの行動や判断に対してお互いがチェックし、もしそこに問題があるようであれば異議を唱えるということが必要となります。副操縦士が操縦桿を握っている場合、上役である機長が副操縦士の行動や判断に対してそうすることはごく自然にできるでしょう。

 しかし機長が操縦桿を握っている際、目下である副操縦士は機長の行動や判断に対して異議を唱えられるでしょうか? もし、思うところがあったとしてもそれを口に出して意見できなければ意思決定の品質は劣化してしまうことになります。つまり、権力が偏在化するシステムでは意思決定の品質が劣化するのです。

(本稿は、ハーバード・ビジネス・レビューEIシリーズ『リーダーの持つ力』の日本版オリジナル解説からの抜粋です)

>>続編『「自分には権限がないから」という理由で行動しない人が根本的に間違っているワケ』を読む