イーロンの才能は
「小」を集めて「大」を作り出す

 両極にある2つの思考をバランスさせ、実行するイーロンの才能は、小さい既存技術を集めて、大きな性能を生み出す、つまり「小」から「大」を作り出す点でも見て取れる。テスラのバッテリーや、ファルコンロケットのマーリン・エンジンがその良い事例だ。

 EV開発において、他社は大きくて高性能なバッテリーを専用で開発しようとしたがテスラはすでに大量生産されノートPCで使われ、“そこそこ”の性能が出る汎用のリチウムイオン電池を使う方法を選んだ。つまり、リチウム電池を約7000個もパッケージ化して、1個の大きなバッテリーのように扱う方法を開発したのだ。

 厳密にはテスラの共同創業者だったマーチン・エバーハードが生み出したアイデアだったが、イーロンはこれを進化させ、製品化に結び付けた。そして、ポルシェを超える優れた走行性能の実現に成功した。今日まですべてのテスラEVはこの大量のリチウム電池を搭載する設計で貫かれている。

 既存の小さな技術を集めて、大きな性能を作り出す手法は、スペースXのファルコンロケットで使っているマーリン・エンジンにも表れている。

 ファルコン9は、野口聡一宇宙飛行士たちを乗せ国際宇宙ステーションに向けて打ち上げた高性能ロケットだが、そのエンジンは1960年代後半に登場した古い技術「ガスジェネレータ・サイクル」を採用していた。

 これはエネルギーロスもあるものの、多くのロケットが採用し、安定した技術だった。燃料にはケロシン、酸化剤に液体酸素という組み合わせも、性能は“そこそこ”だが、取り扱いが簡単という利点があった。

 つまり、安定していて“そこそこ”の性能のマーリン・エンジンを9基束ねることで、大きな1つのロケットエンジンのような高い性能をスペースXの技術者たちは短期間で生み出し、ファルコン9は完成した。

 さらに、マーリン・エンジンを27基束ねたのが、性能がファルコン9の3倍の巨大ロケット「ファルコン・ヘビー」だ。ちなみに、ファルコン・ヘビーはNASAが進める月周回軌道有人拠点「ゲートウェイ」に物資を輸送するためのロケットとして打ち上げが予定されている。