かたや、働く人たちそれぞれが元気である状態を作ることも、ミクロな視点では大切なことです。つまり、仕事にやりがいがあって楽しい、毎日楽しく仕事ができる、といった状況を企業がつくること。これは、仕事がラクである、好きなことができる、という意味ではありません。楽しく仕事をしているところを外部へ見せることで、やりがいを求める仲間をさらに集めることもでき、組織の中の意識も変えることができます。
仕事が楽しくないのは
その仕事の何かが間違っているから
私が好きな小説のひとつに、村上龍の自伝的小説『69 Sixty Nine』があります。小説の舞台は学園紛争の嵐が吹き荒れる1969年、九州西端の米軍基地がある町の進学校。高校3年生の主人公の少年は、女子生徒の気を引きたくて高校でバリケード封鎖をするのですが、警察にバレてしまいます。
学校で処分を言い渡される日の前夜、美術教師の主人公の父は「目を、そらすなよ」と息子に言います。「卑屈になるな、信じてやったんだから、堂々と、処分を受けてこい」という父の言葉を受けて、主人公はその後も面白おかしく学校生活を送り続けます。「卑屈になれば、負け犬とされてしまう。笑ったやつが勝ち」というこの主人公の姿勢が、この小説のとても好きなところ。私も、何かにつけて自分のやっていることは意義があることだと、少しでも成果があれば職場でアピールするようにしてきました。
仕事が楽しくないのは、その仕事の何かが間違っているからです。古い価値観では「仕事なんて楽しんでやるものではない」というのが当たり前だったのかもしれませんが、顧客や社会のために役に立つ、いいものを提供しているのであれば、それを企業や組織はアピールして、働く人が楽しいと感じるようにすべきです。
最近では、顧客体験(CX:Customer eXperience)とともに、従業員体験(EX:Employee eXperience)も重視されるようになってきました。モノやサービス、事業をつくる働き手の体験が良くなることは、いいモノやサービス、事業をつくることにつながっていくからです。