前例がないからこそ新たなチャレンジなのであって、前例を踏襲していたら業績が悪化している現状を変えることなどできない。そこを何とか分かってもらわなければと思い、「前例がないからこそ、現状を打破する力になる可能性があるんじゃないかって思うんですけど……」

 と押してみるのだが、

「前例がないことをするのは危ないんだよなあ。何かあったら責任問題になるから」

 と、まったく取り合ってもらえない。関心があるのはあくまでも、“どうしたら現状打破できるか”ではなく、“どうしたら責任回避できるか”なのだ。

 このように保身的な人物は、加点法でなく減点法の発想で生きている。加点法の発想ならチャレンジもできるが、減点法の発想ではそんな危険なことはできない。大事なのは失敗を避けること、責任を問われないようにすること。そのためには、新たなこと、つまり前例のないことはしないに限る、というわけだ。

 組織は何かと減点法の発想で動き、何かまずいことがあると、その責任を追及することになりがちだ。そのため、この種の何もチャレンジせずに前例を踏襲するだけの人物が生き残り、管理職に上がっていくことが多いから厄介だ。

人に責任を負わせようとする同僚

 責任逃ればかり考える同僚にイライラしたことがある人も多いはずだ。

 組織の方針がおかしな方向に向かっている、これではまずいということで、近いうちに上司に相談に行こうといった話を仲間内でしていると、

「私は関係ありませんからね。聞かなかったことにします」

 と言って、ひとりだけ立ち去る。そのような人物がいてあきれるという声もしばしば耳にする。

 組織の方針に盾突くようなことになって、責任を問われたらまずいと思っているのだろう。みんなで組織改善について知恵を出し合っているのに、自分だけは安全な立場に身を置こうとするのだから、相当な自己チューだが、この種の人物が生き残ることも珍しくないから困るのだ。