実力のなさが自己防衛意識を刺激する

 このような人物の言動を貫いているのは、何としても身を守ろうという強烈な自己防衛意識である。自己防衛のためなら、どんなに格好悪い姿をさらすことになっても構わない。格好付けるよりも身の安全を守ることの方が、このタイプにとってははるかに重要な問題なのだ。

 普段の口癖にその人の深層心理が表れるものだが、同僚に対する口癖からも、自己防衛意識の強さがうかがわれる。よく聞くのが、

「そんなことを言ったら、上からにらまれるよ」
「僕はやめとくよ。にらまれたくないから」
「私は聞かなかったことにします」

 などといったセリフだ。

 なぜそれほどまでに自己防衛意識が強いのか。それは、自分の実力に自信がなく、向上心や意欲が乏しいからだ。いくら実力不足でも、向上心や意欲があれば、もう少し堂々とした生き方ができるはずだ。誰だって、格好悪い生き方をわざわざ選ぶわけがない。

 しかし、これまでの人生において、勉強でも、スポーツでも、仕事でも、自信を持てるようなことがなかったため、何をするにも前向きになれない。実力勝負の世界を生き抜いていく自信がない。ゆえに保身によって何とか無事に生きていく道を選ぶしかないのだ。そこで、力を発揮し、成果を出すことで得点を狙うよりも、余計なことをして失点するのを防ごうということになる。

 このタイプは、万一失敗をして責任を問われるのを恐れるあまり、何かにつけて自分の責任で判断するのを避けようとする。

 たとえば、現場での判断が必要な場面では、スーッと姿を消し、事が決まった頃に現れて、「どうなりました?」と聞いてくる。後になって、その判断がまずかったということになると、自分は関係ないといった態度を取る。

 周囲の人たちは、「本当にずるいヤツだ」「なんて器の小さい人間だ」とあきれるが、失敗を恐れ無難さを求める上司もけっして少数派ではないので、このタイプが上から評価されることもある。そのため、やるせなさを感じる人も出てくる。