居抜き出店に注力することで
出店コストを大幅削減

 基本方針の三つ目である「経営効率の向上」も、さまざまなことを行いました。

 その一つが、出店方法を変えたことです。

 従来は土地を購入もしくは借りて、建物を一から作るのが大半でしたが、居抜き出店にすることで、初期投資を大きく抑えられます。人件費についても、先述の通り、既存店の社員を異動することで、費用を抑えることができました。

 居抜き出店だと、建物はもともとありますから、極端に言えば、賃料さえ払えばいいわけです。例えば賃料が毎月150万円であれば年間で1800万円です。まあ実際には看板を替えたりピットを直したりで2000万~3000万円ぐらいかかりますが、いずれにせよ、その程度で済みます。

 ところが、従来のように土地を買って建物を建てるとなったら、建物だけでも1億8000万円ぐらい。さらに土地は一坪60万円で500坪となると、3億円。合計で約5億円です。

 社長就任後は出店で5億円なんて出せませんから、「とにかく居抜きを探せ」と言い続けました。私自身、銀行・仕入先も含めていろいろなところに「居抜き物件ありませんか」とお願いしてきました。

 物件選びについては、元々がどんな業態の店かにこだわりはありませんでした。社内では「ともかく何でもいい」と言いましたし、実際、自動車販売店、紳士服店、生協からコンビニもありました。

 物件選びにおける唯一の条件は「もうかるかどうか」です。競合他社はしっかりした立地にしっかりしたお店を作っていましたが、店の格好は気にしないで、とにかくもうかるかどうか、採算がとれるかどうか、それさえクリアできるのなら、どんな居抜き物件でも構わないというのが当社の方針でした。

 物件はどんな大きさでもいい。立地だって、都内じゃなくても、九州から北海道までどんな場所でもいいし、幹線道路沿いにもこだわりませんでした。

 居抜き物件ですから、店づくりで「ええ格好」をしようと思ったらダメです。

 賃料が安いということは、入り口が入りづらいとか、ピットが少ないとか、何らかの問題があるわけです。

 当社の標準的な店の売り場面積は120坪強です。しかし、居抜き物件で小さなところでは60坪の店も出店しました。

 店の大きさが変わると、商品アイテム数は全然違うことになります。

 さまざまな居抜き物件で出店することで、当社の支店・商品部などはだいぶ勉強し、ノウハウを蓄積したと思います。

 例えば、2009年に東京都世田谷区に出店した「イエローハット世田谷若林店」は自動車ディーラーの居抜き物件です。場所柄、富裕層が多いので、比較的グレードの高いタイヤなどの商品を充実させています。一方、地方の自動車が主な移動手段となっているエリアの店であれば、軽自動車やコンパクトカー向けの比較的安価なタイヤなどを充実させます。

 出店をバンバンやっていくことで店づくりのレベルは高まります。逆に出店をやめれば店舗は陳腐化していくでしょう。

 その意味では、毎年多くの居抜き物件で出店をし続けたことで得た店づくりのノウハウは、当社の大きな資産だと思っています。

 私が社長に就任する前も、居抜き出店が全くなかったわけではありません。しかし、会社としての戦略や方針として、居抜き出店にかじを切るということはしていませんでした。

 タイヤを売る、車検をやるなどもそうですが、経営トップは明確な方針を打ち出し、それを言い続けることが大事なのだと思います。

 なお、居抜き出店は今も続けていますが、財務的に余裕もできましたので、最近では土地建物を購入する出店も積極的に行っています。