臓器を焼き鳥で説明すると…
臓器について説明するとき、私はよく焼肉や焼き鳥を引き合いに出す。牛や鶏の筋肉や臓器を見慣れた人は多く、その姿形をイメージしやすいからだ。心臓なら、「ハツ」や「ハート」「ココロ」を思い浮かべればイメージをつかみやすい。まさしく「筋肉の塊」である。この筋肉を「心筋」という。
心筋は、腕や足の筋肉と違って、自力でコントロールできない。心臓を動かそうと思って動かしている人はいないし、当然ながら止めることもできない。意図と関係なく動くこうした筋肉を、不随意筋と呼ぶ。逆に、自分の意図で動きを制御できる筋肉は随意筋である。心筋は代表的な不随意筋だ。
心臓は、安静時に毎分約五リットルの血液を送り出す。一方、体全体にある血液の量は、成人でおよそ五リットルである。つまり、一分間で血液が全身を一周するということだ。ただし、この量は運動時に大きく変動する。心拍数が上がるとともに心筋の収縮力も増し、最大で毎分約三五リットルまで拍出量を増やせるのだ。
このように、心臓は収縮を繰り返す「ポンプ」のような臓器だが、拡張することで血液を吸い込む「バキューム」のような機能も持つ。血液をしっかりと送り出すには、その分だけ血液が戻ってくる必要があるからだ。収縮する力だけでなく、拡張する力も大切なのだ。
心臓や血管を専門に見る内科を「循環器内科」と呼ぶ。心臓から出た血液は全身をぐるぐると「循環」しているからだ。循環器内科が担当するのは、心臓だけでなく、血液が循環する系そのものである。
重要なのは、この循環には「二種類の系がある」ということだ。一つが肺循環、もう一つが体循環である。外界から得た酸素を全身に送り届けるしくみだ。
二つの循環のプロセスを簡単に書くと、こうである。
①肺に流れ込んだ血液が外気から酸素を受け取る。②この酸素は血流に乗って心臓の左心房に入る。③左心室から全身に送り出され、酸素が各臓器で消費される。④各臓器から排泄物である二酸化炭素を受け取る。⑤二酸化炭素は血液中に溶け込み、心臓の右心房に戻ってくる。⑥この血液が右心室から再び肺に送り出され、二酸化炭素を放出し、再び酸素を受け取る。肺では酸素と二酸化炭素が交換されており、これを「ガス交換」という。
血液は心臓を中心に「8の字」を描き、肺と全身を行ったり来たりしているのである。
【参考文献】
『人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版 改訂第4版』日本医事新報社
(※本原稿は『すばらしい人体』からの抜粋です)