「今回の五輪は部活やスポーツの功罪を明らかにしたのではないでしょうか。スポーツ大会が盛り上がることには、熱中症や過度なトレーニングを含むさまざまなリスクを不可視化させ、忘れさせる効果があります。熱心な教員をはじめとする多くの人が、部活でスポーツすることは素晴らしいと話しますが、その裏では防げる事故で亡くなっている人や理不尽さに耐えられず辞めた人もいるはずです。今年の五輪期間に、神妙な面持ちでコロナのニュースを伝えていたメディアが五輪のニュースになるとガラッと明るくなるさまは、コロナのリスクなどを覆い隠したと言えます。このような五輪の光景は上記のようなスポーツの功罪と重なって見えました」

 開催自体に賛否両論があった五輪だが、それに続くように甲子園やインターハイなど、部活の大会も今年は続々と行われている。いくらコロナ感染が心配であっても、大会が開催されることで練習せざるを得ない状況になっていると内田氏は言う。

「大会があるから勝つための練習をしなければいけないし、そのためにはマスクを外さないといけない。私が調べたところ、とくに高校で学校のクラスター感染数は授業に比べて明らかに部活のほうが多かったです。すべてが大会ありきで進み、コロナのみならず熱中症のリスクなどがないがしろにされています」

 内田氏によると、中学校と高校の運動部活動では毎年3000件ほどの熱中症事例が報告されているという。また、部活中の熱中症による死亡事例も2005年から2018年では中学校で2件、高校で18件となっている(日本スポーツ振興センター「学校事故事例検索データベース」)。こうした熱中症リスクは当然ながら夏場の練習と大会によるものが大きく、内田氏は抜本的な改革を訴える。

「そもそも、熱中症リスクの高い真夏に大会を開くべきなのか疑問です。夏に大会があるから、当然暑い時期に練習もしなければいけない。『授業がない夏休みにしか大会ができない』という反論もありますが、それは『大会の犠牲として一定数は熱中症になり、毎年1~2人死んでください』と言っているようなもの。生徒の負担を少なくした安心・安全な設計をした上で、大会は開くべきです」

部活顧問の美談の裏に
多くの生徒の犠牲

 このような部活の問題点を危惧してか、文部科学省は部活動を学校主体から地域主体へと移行する「地域移行」の改革案を出している。

 この中では休日の部活動の指導を望まない教員が休日は従事しないこと、学校単位ではなく市町村を越えた他校との合同部活動の推進、学校単位ではない大会への参加形態などの方策を示した。