悲惨すぎるベルサイユ宮殿

左巻 ローマの滅亡とともに、水道施設のほとんどが破壊されてしまいます。上水道も下水道も、中世末期になるまで惨憺たる状況が続いていくわけです。

――惨憺たる状況とは、具体的にどういうことでしょうか?

左巻 きれいな水を引く上下水道がないので、まず道路や広場は糞便で汚れ放題です。さらに、汚物を道の脇に寄せるくらいしかしていませんから、それが地中に染み込んで、井戸水が病原菌で汚染されてしまいます。

――それはひどい状況ですね。

左巻 17世紀に建てられたベルサイユ宮殿と言えば、当時のフランス芸術を象徴する最高傑作の一つですが、初期工事の段階ではトイレ用も、浴室用にも水道施設はありませんでした。

マリー・アントワネットも悩まされた…汚物まみれだったベルサイユ宮殿の真実

――そういう状況で、実際トイレはどうしていたんですか?

左巻 それこそ惨憺たる状況で、そもそも当時、便意を催せば、ところかまわず排泄行為が公然と行われていました。さすがに、宮殿のなかで「ところかまわず」というわけにはいきませんが、ルイ14世やマリー・アントワネットなどが使用していたトイレは腰かけ式の便器です。おしりの部分に穴が開いている、椅子のような形の便器で、汚物は下の受け皿に溜まるしくみになっていました。

 いろいろ調べてみると、この時代、ベルサイユ宮殿には王様や貴族、召使いなどが約4000人が住んでいたのですが、腰かけ式便器は274個しかなかったそうです。

 あまりに数が不足しているので、舞踏会など多くの人が集まる催しには、携帯用の便器を持参する人もいたほど。いわゆる「おまる」を持って、豪華絢爛な舞踏会に参加してくるわけです。

 それで、便器に溜まった汚物をどうするかと言えば、召使いたちが庭に捨てに行きます。宮殿内にあった便器の汚物も、来賓の方たちが持ってきた携帯用便器の汚物もみんな庭に捨てるわけですから、美しいことで知られた宮殿の庭も、糞便であふれて、ものすごい臭いが漂っていました。

――たしかに、それは惨憺たる状況ですね。

左巻 本当にそうなんですよ。