宇沢はまた、社会的共通資本は市場で自由に売買できる通常の財とは違うと言う。

「制度主義のもとでは、経済主体が利用する資本は、社会的共通資本と私的資本との2つに分類される。社会的共通資本は私的資本とは異なり、個々の経済主体によって私的な観点から管理、運営されるものではなく、社会全体にとって共通の資産として社会的に管理、運営されるものである。社会的共通資本の所有形態はたとえ、私有ないしは私的管理が認められていたとしても、社会全体にとって共通の財産として、社会的な基準にしたがって管理、運営されるものである」「社会的共通資本は、土地、大気、土壌、水、森林、河川、海洋などの『自然環境』、上下水道、公共的な交通機関、電力、通信施設などの『社会的インフラストラクチャ―』、教育、医療、金融、司法、行政などのいわゆる『制度資本』におおまかに分類される」

 直感的にも、これらの資本は経済や社会の基礎であり、重要なものだと誰もが思うだろう。社会的共通資本は、市場経済が機能し、現在のように格差が大きくなりすぎない(実質的所得分配が安定的になる)ための基礎的な諸条件であり、一般の物財(たとえば電化製品)とは異なる扱いが必要であると説かれている。

職業専門家によって管理・維持
されるべき社会的共通資本とは

 では、どのように扱えばよいか。

「国家の統治機構として官僚的に管理されたり、また利潤追求の対象として市場的な条件に左右されてはならない。その代わり、社会的共通資本の各部門は、職業専門家によって、専門的知見にもとづき職業的規範にしたがって管理・維持されなければならない」

 宇沢は、国家でも市場でもなく、第三者的なプロ(職業専門家)が専門的な立場と知見をもって、これらの社会的共通資本を管理すべきだと言う。

 さらに本書では、社会的共通資本である「農業と農村」「都市」「学校教育」「医療」「金融制度」「地球環境」について、実際の事例を採り上げ、利潤追求の市場にさらしてしまったことによる失敗や、逆に、国家の画一的、官僚的な支配に無防備に統制させてしまったことによる失敗の経緯が記されている。何でも民営化して市場原理に任せればうまくいくわけではなく、国有化して完全統制すべきでもないと主張しているのだ。