仕事、人間関係…周囲に気を使いながらがんばっているのに、なかなかうまくいかず、心をすり減らしている人も多いのではないだろうか。注意しているのに何度も同じミスをしてしまう、上司や同僚といつも折り合いが悪い、片付けが極端に苦手…。こうした生きづらさを抱えている人の中には、「能力が劣っているとか、怠けているわけではなく、本人の『特性』が原因の人もいる」と精神科医の本田秀夫氏は語る。
本田氏は1988年に東京大学医学部医学科を卒業。横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究を重ね、現在は信州大学で臨床・教育・研究に従事している。2019年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演して話題になった。
本田氏は、「生きづらさを感じている人は『苦手を克服する』ことよりも、『生きやすくなる方法をとる』ほうが、かえってうまくいくことも多い」と言う。
2021年9月に、本田氏が精神科医として30年以上のキャリアを通して見つめてきた「生きづらい人が自分らしくラクに生きられる方法」についてまとめた書籍、『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』が発売となった。今回は特別に本書の中から、「社交的な場が苦手」という悩みについて、一部内容を抜粋、編集して紹介する。
話の合う人がいなければ、黙っているのもアリ
対人関係の悩みとして私がよく聞くのは、「社交的な場が苦手」という話です。
一対一の話し合いはできる。初対面の人でもそれなりに話せる。でも、大勢が集まる立食パーティーのような場所に行くと、誰とどんな話をすればいいのかわからなくなってしまう。ほかの人が雑談をしているところに、タイミングよく入っていくことができない……。
パーティーに参加するときには、「たくさんの人と話して、交流を広げよう」と考える人も多いのではないでしょうか。
たしかにパーティーは、さまざまな人と知り合う機会になります。
しかし、雑談が苦手な人が「自分から話しかけなければ」と思って、自分自身に高すぎるハードルを設定すると、パーティー自体が息苦しい、ストレスフルな場所になってしまいます。
話の合う人がいなければ、黙っていてもいい。無理のない形でそれなりに楽しめればいいや、という心づもりのほうが、気軽に参加できるのではないでしょうか。
誰にでも得意なコミュニケーション・スタイルがある
雑談が苦手で悩んでいる人は、自分がどんなタイプのコミュニケーション・スタイルが好きなのかを考えてみてください。
たとえば、漫才師の場合、ネタでは天才的なボケで爆笑を取る芸人が、トーク番組に出るとあまりしゃべれず、黙っていたりすることがあります。
一方で、トーク番組では当意即妙に話している芸人が、大喜利企画のような場ではすべってしまうこともあります。
そんなふうに、ひとりひとりに得意なコミュニケーション・スタイルがあるわけです。
漫才の「ボケ」と「ツッコミ」も、コミュニケーション・スタイルのちがいと言えるかもしれません。
話を展開させていく人(ツッコミ)と、その話を崩す人(ボケ)。それぞれに役割があり、漫才でもトークでも、適材適所に配置されています。
自分はどんなコミュニケーションが得意なのか、どんな場面だと話しやすいのかを考えてみましょう。
「話しやすい場所で話せればいい」と考えるとラクになりますよ。
(本原稿は、本田秀夫著『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』より一部抜粋・改変したものです)
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長
特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事
精神科医。医学博士。1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より、同子どものこころの発達医学教室教授。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。日本自閉症スペクトラム学会常任理事、日本児童青年精神医学会理事、日本自閉症協会理事。2019年、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)に出演し、話題に。著書に『自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体』『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(以上、SBクリエイティブ)、共著に『最新図解 女性の発達障害サポートブック』(ナツメ社)などがある。