「抵抗せよ。すぐに役に立つ人になるな。熱い人になれ――」

信じられないことが毎日起こり、何を支えに生きていけばよいのかわからない。人生の岐路に立つ若者たちは、いまや夢が描けない日本と言う国に諦めの念さえ抱いている。迷い惑える新社会人や新成人に向けて、作家の伊集院静さんは2000年から毎年、このような熱いメッセージを贈り続け、彼らを鼓舞してきた。

まだ生温かい世界しか知らない若者にとって、伊集院さんの言葉は厳しく、耳をふさぎたくなるものかもしれない。しかし実はそのなかには深い優しさから生まれた若者への期待が込められている。

では、まだまだ大人になりきれない若者が「本物の大人」になるためには、これからどう考え、どう振る舞っていけばいいのか。「本物の大人になるための流儀とは何か」を尋ねると、伊集院さんからは、やはり厳しくも温かいメッセージが返ってきた。
(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子、撮影/宇佐見利明)

大人にとって「生きる」とは何か
誰かのために何ができるか、考えること

――このたびご出版された『伊集院静の「贈る言葉」』でまとめられているように、毎年、新成人と新社会人に熱いメッセージを贈ってこられました。伊集院さんご自身は、どんな若者でしたか。

いじゅういん・しずか
1959年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。81年短編小説『皐月』でデビュー。91年『乳房』で第12回古川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手掛けている。先日、最新刊『伊集院静の「贈る言葉』を刊行。12月にはベストセラーとなった『大人の流儀』の第3弾となる『別れる力』を発表する。

 それはもうみんなと同じです。社会とはどういうものか、全くわかっていなかった。大学卒業後、広告代理店に就職しましたが、最初からそうしたいと思っていたわけじゃありません。広告代理店の人が豪勢に飲み歩いているのが記憶に残っていて、広告代理店に行けば、金を使って遊べるというイメージがあった。実際はそうではなかったですけど。そういう動機で職業を決めたんです。

 それで、ある広告代理店の社長の著書を手に取る機会があって、卒業後の5月にその会社を訪ねました。入社時期は過ぎていましたが、「入れてくれませんか?」と訪ねていっても取り合ってもらえずにいたところ、たまたま社長が通りかかった。「おまえ、体が大きいな。運動をやっていたのか」と聞かれ、「大学で野球をやっていた」と答えました。そうしたら「ちょうど来週、どうしても勝ちたい対抗試合があるから、それまで見習いでいろ」って。また、コピーライターだった社長の文章を書き写す作業をしていたら、当時は韓国名を名乗っていたので「趙くん、君は字が日本人よりきれいだ」と褒められました。それで、野球の試合にも勝って採用された、と。

 どういう仕事をしているか、本当のところは入社するまで見えない。だから、今の人たちも同じだと思いますけど、はじめは仕事や会社を評判や給料の良し悪しで決めちゃうでしょう。でも、それはほとんど失敗する。若い人の給料が必要以上に高いところでいい会社はまずないから。もちろん、これをこうしたから正解、なんてない。正解は50、60歳になってわかることですよ。