だがしかし、実態は必ずしもそういうわけではない。若い人が起業したベンチャー企業の中にはそういうベテランサラリーマンを必要とする企業は結構ある。諸外国に比べて我が国ではスタートアップ企業が少ないといわれているものの、単純に新設の法人数だけを数字で見ると月間1万社前後の企業が設立されている。もちろん多くは個人事業主とさほど変わらないマイクロ企業であるが(筆者が代表を務める会社も同様である)、中にはユニークな商品やサービスを提供している若い企業もたくさんある。

 そういう企業の特徴は、本業の周りのインフラがあまり整っていないことである。本業の部分については非常に優れたビジネス力を持っているものの、営業力が弱かったり、経理の専門家が少なかったり、コンプライアンスに詳しくなかったりというケースも多く、スタート当初は外部の専門家に業務を委託するケースが多いだろうが、次第にビジネスが拡大してくると自社の中で本業をサポートするための業務インフラを構築する必要性が出てくる。そんな時に役に立つのが、サラリーマンとして長年企業で働いてきた人材なのだ。

 多くのサラリーマンは「自分はしょせんサラリーマンだから専門性など何もない」と卑下するが、決してそういうわけではない。早い時期に出世して役員になってしまった人ならそうかもしれないが、現場でひとつの仕事を長くやっていた人はそれなりのスキルができ上がっている。

 そもそも営業であれ、経理であれ、ひとつの分野の仕事を10年もやっていれば、それは世の中では立派なプロである。本人がそのことに気付いていないだけなのだ。事実、知り合いのベンチャー企業経営者からは、「金融機関出身で営業のできる人を知りませんか?」とか、「どこか大企業の総務で、ずっと庶務的な仕事をやってきた人がいたら紹介してほしい」と言われたこともある。まだ創業間もない企業にとって、ひとつの部門で長らく仕事をしてきた人というのはそれなりに魅力的な人材なのだ。