捨てられたキャベツの葉を
食べてでも「生活保護は嫌」

住まいをめぐる貧困問題も見えてきた脱法ドミトリー、インターネットカフェ……住まいをめぐる貧困問題も見えてきた(写真の被写体は記事と関係ありません) Photo:Carl Court/gettyimages

 例えばある60代の女性はすでに自宅の電気もガスも止められた状態で、スーパーに捨てられているキャベツの外葉やブロッコリーの葉っぱを食べて飢えをしのいでいる状態だった。それでも、「役所とはお近づきになりたくない」と生活保護の申請を拒んだ。

 コロナ感染を理由に、勤めていたホテルを解雇された30代の男性は、家賃滞納でシェアハウスを追い出されそうになってもなお「生活保護を受けていることを知られたくない」と利用を諦めた。

 寮付きの飲食店を雇い止めされた後、ネットカフェ暮らしをしながら警備員をしていた40代の女性は生活保護の利用をためらううちに体調が悪化。支援団体に助けを求めたときには乳がんと診断され、即入院が必要な状態だった。

 菅首相が言う「最終手段」は、現実には言うほど簡単なことではないのだ。背景には、長年にわたって世間が「生活保護を受けることは恥ずかしいこと」「不正受給がまん延している」という誤った価値観を垂れ流してきたことがある。

 メディアにもネット世論にも責任の一端はあるが、看過できないのは、一部の政治家も「生活保護は働けるのに働かない人を生み出す」「弱者のふりをして少しでも得をしようとしている人がいる」といった生活保護バッシングを繰り返してきたことだ。こうした発言のせいで、ぎりぎりまで追い詰められながらも生活保護の利用をためらう人たちがいる。身に覚えのある政治家は今からでも自身の振る舞いを振り返るべきだ。

 コロナ禍の貧困取材を続ける中で、もうひとつ驚いたのが「住まいの貧困」である。

 ある30代の女性は東京・新宿の一角にある単身者用のワンルームマンションから支援を求めてきた。筆者が足を運んでみると、その部屋には2段ベッドが4つ設置され、見知らぬ男女8人が寝起きをしていた。脱法ドミトリーである。ネットの予約サイトで見つけたという。

 ネットカフェや脱法ハウスが住まい代わりになっていることは、すでに社会問題になっている。それに加え、上述のような脱法ドミトリーや、1泊1000円ほどのバックパッカー向けのゲストハウス、あるいは店舗に住み込んでいる、知人の家を転々としているなど、コロナ禍のSOSは賃貸アパート以外の場所から発せられるケースが少なくなかった。特に若い人たちの間で賃貸アパートが「高嶺の花」になっているのだ。