周りの協力があれば、できることが格段に増える

 いくつかの対策を実践してもミスがなくならない場合には、「自分はミスが多いタイプだ」と認識して、目標設定を変えたほうがいいかもしれません。

 多少のミスが出るのはしかたがないと考え、目標を「ミスをしないこと」ではなく、「ミスをしてもカバーできるようにすること」にします。

 私自身、よく忘れ物をします。

 電車にカバンや傘を忘れてきてしまい、意識してもなかなか改善できませんでした。そこで、「自分は忘れ物をしやすい」と意識して、電車のなかでは持ち物を体から物理的に離れないようにしたのです。

 カバンは必ず肩にかけておき、傘は手に持つ。持ち物を網棚や座席に置かない。「忘れ物をしない」のは難しそうなので、「自分が意識していなくても、持ち物が体から離れない方法」を考えたわけです。これによって、忘れ物がかなり減りました。

「忘れないように意識しなくても大丈夫」な方法は、仕事の場でも活用できます。

 たとえば、打ち合わせでは、自分でメモをとり、その内容をメールなどで相手と共有して、間違いがないか確認してもらうといいでしょう。

 話を聞き間違えたり、メモを書き間違えたりしていたら相手が指摘してくれるので、訂正もできます。

 また、あらかじめミスが出そうな作業については、自分で工夫したのち、周りの人にも「ミスがないか、ご確認いただけますか」と伝えておく。

 ひとりでできることには限界がありますが、人の協力があれば、できることは格段に増えます。ありとあらゆることを駆使して、ミスの多さに対処していきましょう。

 いくら周りの力を借りても、それでもミスをすることはあります。

 そんなときには自分を責めすぎないで、適度に反省して気持ちを切り替え、「完璧じゃなくてもいい」「ひとりでやらなくてもいい」と考えるようにしてください。

 自分を追い込まないことが大切です。

(本原稿は、本田秀夫著『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』より一部抜粋・改変したものです)

本田秀夫(ほんだ・ひでお)
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長
特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事
精神科医。医学博士。1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より、同子どものこころの発達医学教室教授。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。日本自閉症スペクトラム学会常任理事、日本児童青年精神医学会理事、日本自閉症協会理事。2019年、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)に出演し、話題に。著書に『自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体』『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(以上、SBクリエイティブ)、共著に『最新図解 女性の発達障害サポートブック』(ナツメ社)などがある。