日本航空(JAL)がパイロットの訓練を改革し続けている。ボーイングの大型機777と中型機787を、ベテラン機長が「混乗」する取り組みを日本で初めてスタートさせたのだ。JALがどのようにパイロットの訓練を改革していったのか、改めて振り返るとともに、混乗についてパイロット当事者の声をレポートする。(Aviation Wire編集長 吉川忠行)
ピンチをチャンスに変える
パイロットの訓練改革
新型コロナウイルス感染症の影響で、世界の航空会社が大打撃を受けて1年以上が過ぎている。国内大手航空会社の首脳からも、「長期化は覚悟していたものの、想定よりも回復は遅れている」との声を聞く。
一方で、コロナ禍になる前の数年間は、旺盛な訪日需要により路線や運航便数の拡大が続き、各社が思い描く「社員教育」を実現できていない面もあった。
航空会社はパイロットや客室乗務員のように、訓練と乗務を繰り返す職種の社員が占める割合が大きく、稼働が高まれば高まるほど、訓練内容を大胆に見直すことは難しい。コロナ禍の現在、運航便数の大幅減は経営的には大ピンチだが、運航現場では、普段は大きく変えられないことに着手できる「チャンス」ともいえる。
日本航空(JAL)の場合、かつて2010年1月の経営破綻が日常業務を見直す契機になった。京セラ創業者の稲盛和夫氏が持ち込んだ「部門別採算制度」が有名だが、実はこの時、パイロットの訓練も大きく変えた。破綻の影響で、資格維持以外の訓練が一時できなくなり、新人パイロットの養成は全面停止せざるを得ない状況に追い込まれていた。しかし、そんなピンチをチャンスに変えようとしたのだ。
パイロットの訓練方式を大きく変えることは、安全に直結する問題でもあり、航空会社にとって難しい判断を迫られる課題だ。詳細は後述するが、訓練内容を機長と副操縦士のチームワークを重視したものに改革した。そして、パイロット自身が訓練に使うデータベースを開発したことで、スピーディーに訓練を見直せる体制を構築した。
あれから約10年を経て、JALでは再びパイロットに関する改革が進んでいる。民間機は制度上、一度に異なる機種に乗務できないが、ボーイングの大型機777と中型機787を、ベテラン機長が「混乗」する取り組みを日本で初めてスタートさせたのだ。
本稿では、JALがどのようにパイロットの訓練を改革していったのか、改めて振り返る。そして、混乗についてパイロット当事者の声をレポートする。