対中政策において、最も心を砕かなければならないのが、台湾を中心とする西太平洋海域における安全保障問題だ。そもそも台湾が中国の手に落ちれば日本の安全保障にとって大打撃になり、紛争に日本が巻き込まれることは確実な状況になる。もちろん紛争は避けるに越したことはないだろうが、ただおとなしくして相手を刺激しなければ紛争が起きないというものではない。

 中国の台湾侵攻を阻止するためにも、新政権は同盟国アメリカや「準同盟国」のオーストラリアやイギリスなどと協力して、中国に対する抑止を高める政策を実行する必要に迫られている。

 ここでは具体的にどのようなことが必要なのかを順を追って考えたい。

中国の海軍増強で
高まる台湾有事の可能性

 台湾併合は中国成立以来の宿願と言っていいだろう。

 また、日本列島からフィリピンまでの列島群は、中国沿岸を囲む役目を果たしている。台湾を併合できれば、その一角を崩して太平洋やインド洋に出るための道が大きく開かれることになる。

 中国がいまだに台湾侵攻を実行できずにいるのは、言うまでもなく、アメリカがバックにいて、台湾を侵攻すると必然的にアメリカと対決せざるを得ないからである。

 ただ、中国も手をこまぬいていただけではなく、海軍力増強に力を入れてアメリカに対抗できる力を備えつつある。

 だが、中国には大きな弱みがある。アメリカが日本やオーストラリアやインドなどの有力国と連携しているのに対して、中国と連携している国で海軍力のある国はロシアくらいしかなく、そのロシアが有事に際して中国の味方になってくれるのかどうかは不透明なことだ。そのため、中国が大きく力を伸ばしている現時点においても、太平洋とインド洋におけるプレゼンスはアメリカ優位であることは間違いない。

 ただし、台湾に関しては様相が異なっている。習近平主席は2013年に就任して以来、陸軍中心だった人民解放軍を海軍増強にシフトさせて、台湾侵攻のための準備を着々と行ってきた。

 その結果、日本列島からフィリピンまでの中国近海のプレゼンスは中国がアメリカを逆転したとみる向きも増えている。アメリカにおいても、台湾で紛争が起こった場合に中国側が勝利するのではないかという意見が増えており、中国による台湾有事がいつ起こってもおかしくない状態にある。

台湾有事の背景にある
米中半導体戦争

 台湾の重要性に関わるものとして、半導体ファウンドリー企業であるTSMCの存在も見落とせない。

 米中貿易戦争のコアには高性能半導体をめぐる争いがある。現在、世界の高性能半導体の製造の大部分をTSMCが受け持っており、アメリカの対中政策の中心はTSMCの高性能半導体の流通を止めることにある。