海洋における軍拡競争では原子力潜水艦が中心となるために、特に太平洋・インド洋における安全保障は原潜抜きでは語れなくなっている。オーストラリアも対中防衛に鑑みて、フランスに不義理をしても、また、これまでの非核の立場を棄てても、原子力潜水艦を持つ決断を下したとことになる。

 台湾防衛においても、日米豪などの同盟国が原子力潜水艦で連携することが重要である。日本もオーストラリアの英断に続くべきではないのか。

岸田新政権の安保政策に
求められる2つの課題

 日本を取り巻く安全保障上の条件がこれほど激変している中で、国内の安全保障の議論はすでに周回遅れというべき状況になっている。

 今回の自民党総裁選では敵基地攻撃能力を保持するかどうかが議論になっていたが、国際的には敵基地攻撃は「先制的防衛」として国民を守るための当然の権利であり義務である。いまこの時点で敵基地攻撃能力の是非を議論しているようでは日本の安全保障は「周回遅れ」になってしまう。

 これからの安全保障の議論は海洋の防衛、特に原子力潜水艦保有に進まなければならないと筆者は考えている。日本の国土を守るためには周辺海洋を守るのが当然であり、その主役は原子力潜水艦に移っているのである。

 日本が原潜を保有すれば非核三原則に違反することになるが、「核を持ち込むのは是か非か」といった観念的なレベルの議論をいつまでも続けていては、日本の安全保障は国際レベルにはるかに及ばなくなり、「(日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国による外交・安全保障の協力体制である)クアッドの中心」という地位も名ばかりのものになりかねない。岸田氏は原子力潜水艦の保有については否定的な見解を見せているが、いま現在の海洋防衛の現状を把握して、ぜひ前向きに取り組むことを検討してもらいたい。

 もう一つは、最初に述べた半導体である。軍事技術では半導体は欠かすことはできない。クアッドでレアアースなどを含めて中国に頼らない半導体サプライチェーン作りを目指すことを明言している。

 半導体は産業だけでなく安全保障においても重要であり、高性能半導体において常に中国を上回る技術力を保持することが求められる。1980年に入ってからは日本の半導体は圧倒的なシェアと技術力を誇っていたが、1986年の日米半導体協定をきっかけに、アメリカのほか、台湾・韓国・中国勢にシェアを奪われてしまった。だが、国際分業が進んでいる現状では、どこか1カ国が突出するというのではなく、各国が秀でるところを持つことで、その力が合わさる形で最先端技術の半導体が作られるようになっている。

 だが、アメリカや中国やEUが半導体支援に数兆円を投じる中で、日本の支援金はわずか2000億円にすぎない。このレベルで日本の半導体の復権はあり得ず、このまま技術競争に取り残されるだけになりかねない。

 こういった支援金の大半は「無駄金」になるものだが、研究資金とはもともともそういうものである。半導体は国家の産業とともに安全保障を支える根幹である。半導体に対しては大規模予算を確保して、再び世界をリードする地位を取り戻すべく行動すべきだ。

 原子力潜水艦と半導体、この2つは日本が直面している諸問題の中でもすぐにでも手を付けるべき重要課題である。新政権には前向きな取り組みを期待したい。

(評論家・翻訳家 白川 司)