新しい経営スタイルへの移行が成功した場合
NTTの働き方はどう変わる?

 たとえば、法務部を二分割して首都圏の法務は本社、地方の法務は福岡に移転するとします。また研究や開発のプロジェクトはプロジェクト単位で地方に分散して、Aというプロジェクトは前橋、Bというプロジェクトは新潟、Tというプロジェクトは豊田といった形でそれぞれ中核都市に一定規模の組織の核ができるとします。

 ここでNTTの方針が興味深いのは、その前提でありながら転勤と単身赴任を廃止することです。組織を地方に分散させながら、その組織の機能は地方の社員に依存しようという考え方です。しかしこれまで中央の社員が担ってきた仕事を、地方の社員がそのまま担うことが能力的に可能なのでしょうか?

 これまでの日本の大企業の大卒社員は、いわゆる“ローテーション人事”で育てるという慣習がありました。まず本社の管理部門に配属され、4年目に営業に異動、7年目に「地方を経験してこい」といわれて札幌に転勤、11年目に本社に呼び戻されて経営企画部に配属といった形のキャリア形成です。これが転勤を廃止し、組織を地方分散させると、このような人材の育て方が難しくなるわけです。

 論理的には、この問題の解決法は三つあります。

 ひとつは、幹部人材と専門人材のキャリアを分けること。ほとんどの社員は専門社員としてジョブ型雇用で育てつつ、ごく一部の幹部候補社員については転勤を伴う異動によって育てていく。つまり例外をつくるという考え方です。

 2番目に、リモートで異動するという解決策がありえます。法務部が仮に福岡に移ったとしても、法務部員は松江、神戸、浜松といった形で、3割ぐらいの部員が全国からリモートで働いている。そのような解決策です。

 そして3番目に、5年ほどの期間をかけてDXやAI化を進めて業務を定型化したうえで、完全なジョブ型雇用へと移行するという手があります。新卒社員や中途入社社員は採用時に本人の適性と居住地を考慮して配属を決めた前提で内定を出す。上記の例ですと、法務部を希望する人材は東京か福岡居住を前提に採用するわけです。

 そしてすでに雇用した社員に関しては、やはり適性を見ながら、現在勤務している場所の中で本人に合ったジョブへと異動され、その後固定されていくようにする。一方で業務がある程度定型化されるので、新しいジョブでも社員が戸惑うことはそれほどない。そのような考え方です。

 NTTの場合、少なくとも管理職については全員、ジョブ型の制度への移行を発表しているわけですが、それを全社員まで広げれば、地方分散とジョブ型のキャリア形成が論理的には両立できることになります。