ニューノーマルの時代にはこれまでの勝ちパターンは通用しない。変革期に必要な新しい思考回路が求められている。それがアーキテクト思考だ。アーキテクト思考とは「新しい世界をゼロベースで構想できる力」のこと。『具体⇔抽象トレーニング』著者の細谷功氏と、経営共創基盤(IGPI)共同経営者の坂田幸樹氏の2人が書き下ろした『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考 具体と抽象を行き来する問題発見・解決の新技法』が、9月29日にダイヤモンド社から発売される。混迷の時代を生きるために必要な新しいビジネスの思考力とは何か。それをどう磨き、どう身に付けたらいいのか。本連載では、同書の発刊を記念してそのエッセンスをお届けする。

今、必要とされているアーキテクトとは、「抽象化してゼロベースで全体構想を考える」ことができる人Photo: Adobe Stock

アーキテクトは、根本的な世界観を提示する

 今回はアーキテクト思考の概要についてご紹介します。前回お話したような変革期のビジネスにおいていま不足しているものの考え方、つまりゼロベースで白紙の状態から抽象度の高い全体構想を構築するための思考法を、ここでは「アーキテクト思考」と定義しました。

 英語のArchitectとは文字通りには建築家を意味します。ITの世界でも「アーキテクチャー」(CPU等の基本的な設計思想)という言葉に現れるように、情報システムの複雑な構成単位を組み合わせた全体の基本的な思想や構造を設計する人が「ITアーキテクト」という表現で用いられています。

 本連載で定義する(カタカナの)「アーキテクト」とは、本書では「全体構想家」を意味し、その元々の語源である建築家のように、白紙に抽象度の高いコンセプトや将来像を構想できる人のことを意味します。

 誰かが設定したフィールドでプレイするのではなく、そのフィールドそのものを更地から想像し、そこにどんなプレイヤーを呼んでどんなゲームをするのかという全体の場を設計する、そのための思考がアーキテクト思考です。

 VUCAとデジタルトランスフォーメーション(DX)によって20世紀とは大きくルールの変わったこれからのビジネスにおいて、ボトルネックとなるのは上記のアーキテクトの不足ではないかというのがここでの仮説です。

 本記事ではそのアーキテクトの思考回路や思考プロセスについて明確にするとともに、そのビジネスにおける実践イメージを、フレームワークや事例を通じてつかんでもらいたいと思います。

 アーキテクトとは、狭義では現在実際に用いられている建築家あるいはITアーキテクトを意味しますが、本書での対象はそのコアスキルをさらに一般化してビジネスを含めたあらゆる領域に拡大し、各々の領域で「抽象化してゼロベースで全体構想を考える」ことができる人とします。

 旧来の慣習にとらわれずに新たな場を作る起業家はもちろん、新規事業開発者も「ビジネスアーキテクト」であり、その他の領域でも、例えばデジタル技術を駆使して都市計画を作り上げる「スマートアーキテクト」、コミュニティを立ち上げる「コミュニティアーキテクト」、何らかの組織やグループを立ち上げる「グループアーキテクト」、新たなドキュメント体系を作り上げる「ドキュメントアーキテクト」、様々なコンセプトをゼロから作り上げる「コンセプトアーキテクト」等、何にでも適用は可能です。さらに言えば、私たちは皆「自分自身の人生のアーキテクト」であることも必要となるでしょう。

 他にも、いま日本が世界的に圧倒的な競争力を持っている数少ない分野として挙げられるのが「ゲーム」や「アニメ」ということになりますが、ここでの強みは単に表面的な面白さのみならず、そこに何らかの「世界観」が提示されていることではないでしょうか? このように根本的な世界観を提示することもアーキテクトには求められます。