安倍氏による「新・闇将軍」体制の確立

 自民党総裁選が、血で血を洗う権力闘争であることはいうまでもない。勝者はおいしい権力の蜜をすべて取る。一方、敗者は徹底的に干し上げられるが常だ。安倍政権時の石破茂元幹事長の冷遇は誰もが知るところだ(第190回)。今回の総裁選後も、敗者となった河野氏は「党広報委員長」へ「格下げ」となった。

 ところが、岸田新総裁は、敗者を干しただけではなかった。党四役に総裁派閥・岸田派から1人も起用しないという露骨な「岸田派外し」を行ったのだ。

 党四役は、「3A(安倍・麻生・甘利)」の一角・甘利明幹事長、安倍氏の「側近」・高市早苗政調会長、アベノフォンに籠絡された福田達夫総務会長、そして谷垣グループ(有隣会)の遠藤利明選対委員長となった。

 内閣人事も発表され、内閣官房長官は細田派の松野博一氏が起用された。萩生田光一氏の起用も取りざたされたが、松野氏が起用された理由は、当選回数が上だからだという見方がある。

 だが、それ以上に重要なのは、萩生田氏が安倍政権時のコロナ対策「全校一斉休校」に文科相として公然と異を唱えたり、菅義偉政権の組閣でも官房長官起用が取りざたされたほどの「実力者」になったことだ(第253回・p4)。安倍氏は、「実力者」の官房長官起用を嫌がった。一方、松野氏ならば、安倍氏が支配する岸田政権の方針に従い、忠実に粛々と「実務」をこなすと考えたのではないだろうか。

 また、財務相には「3A」の一角・麻生太郎氏の側近にして親戚の鈴木俊一氏が起用された。鈴木氏は大ベテランだが、財政通と呼ばれる経歴はない。麻生氏は党副総裁に移るが、その後も実権を握り続けるつもりなのだ。

 これが、安倍氏による「新・闇将軍」体制の確立なのである。