岸田政権が長引けば、「新・闇将軍」の力が強大に

 安倍氏が、岸田政権期にこの支配体制をしっかり構築し、岸田政権が総選挙、参院選を乗り切り長期政権化すれば、どうなるか。人事権、資金配分権、公認権を「新・闇将軍」が掌握し続け、新人候補は「新・闇将軍」の推薦する人ばかりになることはありえる。現在でさえ、自民党議員の約4割は、安倍政権期に初当選した若手だが、それ以上に安倍氏の影響下にある政治家が増えて、党内の多数派となっていく。総裁選で勝てるのは、「新・闇将軍」に従う人ばかりになる。

 そうなれば、誰が首相になろうと、人事権、資金配分権、公認権を行使するポジションに就くのは「新・闇将軍」の影響下にある政治家だけになる。だから、安倍氏をただの「首相の後見役」とみなすのは甘いと思う。「新・闇将軍」と呼ばせていただくのが妥当だ。

 永田町に「新・闇将軍」が誕生しようと、国民にとって重要なことは、政治が国民の生命と安全、生活を守ってくれるかどうかだ。「新・闇将軍」の影響が強まると、岸田政権が「保守化」「右傾化」すると思われるだろうが、事は単純ではない。

 安倍政権時代の国内政策は、実は「女性の社会進出」「全世代社会保障」「教育無償化」「外国人単純労働者の受け入れ」など、社会民主主義的な傾向が強かった(第218回)。これらは、保守派の不満が強かったが、それを押し切って実行された。

 安倍政権の経済政策「アベノミクス」も含めて、世論・社会情勢の変化に対して「現実的対応」をするのが安倍政権の特徴だったのだ(第163回)。この傾向は、岸田政権でも継続されるのではないだろうか。

 総裁選でも論争になった「同性婚」「選択的夫婦別姓」など多様性・人権に関わる政策は、高市政調会長の下で自民党内の議論が停滞すると思われるかもしれない。だが、私はむしろ着実に前進すると考える。

 高市政調会長は、本質的には保守というより徹底したリアリストだ。それは、女性政治家として政界を生き抜く術だった(第285回・p3)。例えば、選択的夫婦別姓の問題については、「通称使用の拡大」に取り組んできたと総裁選で説明してきた。選択的夫婦別姓は、女性差別の問題であると捉えられがちだが、それと同時に、女性の社会進出の促進という「競争政策」の側面がある。高市政調会長は、女性の社会進出を否定するのではなく、現実的な取り組みをしてきた。多くの女性議員など「推進派」の議員との間で、党内の議論は活発化する。議論の活発化は、岸田首相の総裁選時の発言と一致している。

 来る衆院選、来年の参院選に向けて、自民党は権力を死守するためのリアリティーを見せつけるだろう。「同性婚」「選択的夫婦別姓」など社会民主主義的な政策の党内議論を進めていくことは、野党の存在意義を消すことになるからだ。