働きながら多くのことを犠牲に
でも肝心なところでは男性が優先

「女性はアスピレーションの冷却を散々されてきたけど、今度はシニアのアスピレーションの冷却だわ」

 メーカーで課長職を務める上原記子さん(53歳、仮名)は、思わずつぶやいた。

 アスピレーションとは、志(こころざし)や、願望、意欲、あるいは向上心や熱望などを意味する。「アスピレーションの冷却(クーリングダウン)」は、19年に東京大学の入学式で、社会学者の上野千鶴子氏が祝辞の中で使った言葉だ。「どうせ女の子だし」「しょせん女の子だから」といって女子学生たちが足を引っ張られることを指して用い、注目を浴びた。

 上原さんは、本人いわく、「ずっとバリキャリ的に」働き続けてきた。社内で面白そうなプロジェクトの公募があれば自ら志願した。

 あるプロジェクトの責任者を誰に任せるかと議論になったとき、上原さんはいつものように手を挙げた。経験もあり、自分が一番の適任者だと思った。うまくやる自信もあった。

 周囲も納得し、ほぼ彼女に決まりかけたとき、横やりが入った。ある男性にそろそろポジションをあげたい、実績作りをさせてあげたいとのことだった。上原さんは「あ~、やっぱりね」と思ったという。

 働きながらこれまで多くのことを犠牲にしてきた。子どもの受験シーズン中、本命校の受験日さえ、出張中で家には帰れなかった。子どものそばにいてやりたかったが、出張に行かないとは言えなかった。

 そんなふうに頑張ってきたが、それでもやっぱり、肝心なところでは男性が優先されてしまう。

 会社は、ダイバーシティーを推進しているという。が、彼女からすると、まだまだ表面的で、やっぱり女性は男性の「次」になる。

 それでも若い頃は持ち前の強気で、「なにくそ!」と自分を奮い立たせ、モチベーションをなんとか保ってきた。いずれ古い考えのおじさんたちはいなくなる。この人たちがいなくなれば、もっと自由に女性も活躍できると思ってきた。

 ところが、自分が当時のおじさんたちと同じ50代になって、今度は別の問題が彼女の悩みになった。