主要先進国の経済運営が
「修正型の資本主義」に向かっている

 経済政策面で岸田首相は、新自由主義を否定(転換)し、新しい資本主義を創る意思を表明した。同氏は、分配を進めることなどでGDP(国内総生産)成長を実現し、さらに分配を増やして経済と社会の安定を目指そうとしている。

 新自由主義では、「レッセフェール(なすに任せよ)」を重視し、経済運営は市場原理に任せた方がよいと考える。それよりも岸田氏は、政府主導で中間層への分配を手厚くし、それによって消費や投資を増やして成長を目指したい。その背景の一つとして、小泉内閣(2001~06年)が進めた構造改革(通称、小泉改革)によって、わが国の格差が拡大したとの認識があるようだ。

 ただ、その認識は必ずしも正確ではないだろう。所得格差を示す代表的な指標であるジニ係数の推移を確認すると、1980年代半ば以降わが国のジニ係数は上昇傾向だ。経済運営の効率性の向上を目指した小泉改革だけがジニ係数を上昇させた要素とはいえない。

 また、OECD(経済協力開発機構)のデータを用いて国際比較を行うと、わが国のジニ係数は米国、英国、韓国などを下回る。資本主義経済の根本的な目的は、市場原理によって限りある資源を成長期待の高い分野により効率的に再配分して経済の成長を実現することだ。そのために競争原理が働く。その結果として、ある程度の格差が生じる。それは、ある意味では自然といえる。

 岸田政権が新しい資本主義を目指す背景には、主要先進国の経済運営のあり方の変化もあるだろう。自由資本主義体制を重視してきた米国は、半導体など経済安全保障面で重要性が高まる先端分野の資材の生産能力を強化するために、補助金の支給などを重視している。それは、主要先進国の経済運営がレッセフェールから、必要に応じて政府が市場に介入する「修正型の資本主義」に向かっていることを意味する。