メンバーの「結婚式」で
気付かされた「大切なこと」

 この失敗は、その後もずっと胸に残り続けました。

 そして、もう二度と、あのような失敗を犯してはならないと、自分に言い聞かせてきました。

 とはいえ、私はただの“凡人”です。相性のいい人もいれば悪い人もいる。好きになる人もいれば、どうしても好きにはなれない人もいる。それが、嘘偽りのない私の実像なのです。だから、どうすれば、あのような失敗を繰り返さないようにできるかと悶々と考え続けていました。

 そして、あるとき「答え」がわかりました。

 それは、あるメンバーの結婚式に出席したときのことです。

 そのメンバーは「会社」と「プライベート」をはっきりと分けるタイプで、やるべきことはしっかりやるけれども、必要以上に上司や同僚との距離を縮めようとはしない人物でした。だから、私も、彼の距離感に合わせて、あまり無理に距離を縮めようとはしていませんでした。

 ところが、結婚式で、彼のご両親と言葉を交わさせていただき、ご両親が彼を見つめる眼差しを目の当たりにすると、私のなかの彼に対する気持ちに大きな変化が起きたのです。

 その後も、職場での彼との関係性は、相変わらず非常にビジネスライクなものでしたが、私の目には、その彼の背後に、彼のことを大切に思っているご両親の姿が見えます。そして、私が間違いを犯して、彼を不幸にするようなことをしたら、どれほどご両親が悲しまれるだろうと思いました。そんなことは、絶対にしてはならないと強く思えたのです。

リモートワークを導入する会社が、
公式にやっておくべきこと

 そのときに、思い出したのが、かつて傷つけてしまったメンバーのことです。

 もしも、私が彼のご両親と出会う機会があったとしら、あのような失敗を犯すことはなかったのではないか。彼と袂を分かつのはやむを得ないことだとしても、ご両親の気持ちを思えば、彼のその後の幸せを願って、それなりの対応ができたのではないか、と。

 だから、それ以降、私は、メンバーの家族と出会える機会があれば、できる限り、その場に伺うようになりました。そして、ご両親や配偶者、そして子どもたちと触れ合うようにしたのです。これは、私の管理職としてのメンタリティを養ううえで、非常に大きな意味をもったと思っています。

 ただ、これが実は難しい。

 なぜなら、こちらからメンバーの家庭に押しかけていくわけにはいかないからです。

 結婚式のような機会がなければ、なかなかメンバーのご家族と触れ合えるチャンスは巡ってこないのです。

 その点、ソフトバンクはありがたかった。というのは、私が勤めていた会社がソフトバンクに買収されたのですが、ソフトバンクでは、「ファミリー・デイ」と称して全社員の家族を招くイベントを定期的に開催していたからです。会社が公式にメンバーのご家族と触れ合える機会をつくってくれるのは、本当にありがたいことでした。

 私は、こうした取り組みはリモート環境下では、なおさら重要性が高まると考えています。

 なぜなら、リモート環境下では、毎日、同じ空間に集まって仕事をしていた頃よりも、管理職とメンバーの心理的な距離が開くことは避けられないからです。だからこそ、会社としてリモートワークを導入するのならば、意識的に「ファミリー・デイ」のようなイベントを実施することによって、心理的な距離を縮める努力をするべきだと思うのです。

 ちなみに、オンライン会議のときなどに、メンバーのところに小さなお子さんがジャレついてくるようなアクシデントが起きることがありますが、管理職にとってはメンバーのご家族と触れ合える貴重な機会と捉えた方がいいでしょう。あれは、リモートワークのメリットと言ってもいいことですから、程度問題ではありますが、管理職としては、むしろ歓迎する姿勢を示したほうがいいと私は考えています(詳しくは『課長2.0』をご参照ください)。