顧客・現場起点でバリューチェーンを再設計する

アーキテクト思考で、バリューチェーンを再設計する方法Photo: Adobe Stock

 前回と今回の連載を通して、家電メーカーの打ち手には製造コストを下げるだけでなく、様々な対応策の可能性があることが分かりました。

 コストで太刀打ちできないからと単に低コストの生産地を求めるのではなく、まずは顧客の声に耳を傾けて求められる価値を知り、現場の声を聞いてボトルネックを把握してから、解決策を考えましょう

 海外の家にはウェットキッチンとドライキッチンの二種類があり、それぞれで必要とされる冷蔵庫の仕様も異なっていたりします。

 また、熱帯の国ではエアコンの暖房機能は不要で、冷房機能のみを使用した際の耐久性や故障した際のメンテナンスの方が重要視されたりします。単に先進国で売れたもののスペックを落として安売りをするのではなく、企画面で工夫できることも色々とあるのではないでしょうか。

 機能的価値のみならず情緒的価値に訴えることで、バルミューダのように4万円もするトースターを売っている会社や、デロンギのように5万円もするコーヒーメーカーを売っている会社もあります。

 家電量販店で売っている3千円のトースターで焼いたパンとバルミューダのトースターで焼いたパンの違いが明確に分かる人がどれほどいるかはわかりませんが、顧客が対価を支払っている以上、顧客がその価値を認め、価格を適正だと感じていることは否定できません。

 第2回でも解説したように、他社の動きに反応するのではなく、自ら能動的に動くことが重要です。既にあるものの改善ばかりに努めるのではなく、顧客や現場の情報を一度抽象化した後に、自社の強みとボトルネックをしっかりと念頭に置きつつ、ゼロからバリューチェーンを再設計してみましょう。

 次回以降も、読者からの質問に答える形でアーキテクト思考について事例を交えながら解説できればと思います。こちらから質問をいただければと思います。

細谷 功(ほそや・いさお)
ビジネスコンサルタント・著述家
株式会社東芝を経て、アーンスト&ヤング、キャップジェミニ、クニエ等の米仏日系コンサルティング会社にて業務改革等のコンサルティングに従事。近年は問題解決や思考力に関する講演やセミナーを企業や各種団体、大学等に対して国内外で実施。主な著書に『地頭力を鍛える』(東洋経済新報社)、『具体と抽象』(dZERO)『具体⇔抽象トレーニング』(PHPビジネス新書)、『考える練習帳』(ダイヤモンド社)等。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者・IGPIシンガポール取締役CEO
キャップジェミニ・アーンスト&ヤング、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て現職。現在はシンガポールを拠点として政府機関、グローバル企業、東南アジア企業に対するコンサルティングやM&Aアドバイザリー業務に従事。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)、ITストラテジスト。