ニューノーマルの時代にはこれまでの勝ちパターンは通用しない。変革期に必要な新しい思考回路が求められている。それがアーキテクト思考だ。アーキテクト思考とは「新しい世界をゼロベースで構想できる力」のこと。『具体⇔抽象トレーニング』著者の細谷功氏と、経営共創基盤(IGPI)共同経営者の坂田幸樹氏の2人が書き下ろした『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考 具体と抽象を行き来する問題発見・解決の新技法』が、9月29日にダイヤモンド社から発売された。混迷の時代を生きるために必要な新しいビジネスの思考力とは何か。それをどう磨き、どう身に付けたらいいのか。本連載では、同書の発刊を記念してそのエッセンスをお届けする。好評のバックナンバーはこちらからどうぞ。
前回は、新興国でのコスト競争に苦戦している家電メーカーの事例からバリューチェーンを理解することの重要性について解説しました。
今回は、具体的なバリューチェーンの改革について考えてみましょう。
負けている理由を、今一度よく考えるべき
今回の質問者は新興国メーカーとのコスト競争に勝てないということでしたが、日本メーカーにおける要素コスト(労務費、原料費、経費)は新興国メーカーのそれと大きくは変わらないはずです。
それでも新興国メーカーが一定品質の製品を製造して利益を出しているとすると、コストが競争に勝てない本当の理由なのか、疑問を感じずにはいられません。そもそも現状の分析が正しくできていない可能性があります。
新興国の低品質・低コストブランドとの競争には勝てないからと、撤退する話は良く耳にしますが、低品質とは言え新興国メーカーの家電は、一定程度の品質は備えています。
また、300社の電気自動車メーカーがしのぎを削っている中国は、もはや高品質を備えた製品を世界中に提供するモノづくり大国になっています。
こうした新興国メーカーや他の日系メーカーを単にベンチマークとするのではなく、まずは自社のバリューチェーンをしっかりと分析しましょう。
その際に重要となるのが、現場の声にしっかりと耳を傾けバリューチェーン上でのボトルネックを見つけ出すことです。
ボトルネックというのは最も脆弱な箇所を指しますが、強みを生かした上で付加価値を高めるためにも不可欠なステップとなります。
例えば、商品企画力に定評のある家電メーカーであっても製造力にボトルネックがある場合、品質に問題が発生したり、納期通りに製造できなかったりという問題を抱えている可能性があります。
あるいは、高品質な商品を低価格で提供する製造力を有する企業が、販売チャネルの変化により販売にボトルネックを抱えているかも知れません。
目の前に課題が転がっているとその全てに手を付けたくなりますが、まずはバリューチェーン全体を俯瞰し、自社の強みとボトルネックを抽象化して把握してから問題解決に当たることを意識してみましょう。