オールラウンダーを求める日本社会に振り回されるな

──「ミスが多い人をフォローする余裕はない!」という職場であれば、どうしたらよいでしょうか?

本田:それはもうさっさと辞めたほうがいいと思いますよ(笑)。きちんとした会社であれば、ちょっとしたミスがあっても問題が起こらないようにダブルチェックの体制をつくっているはずですし、それに、優秀な上司であれば部下の特性をきちんと見抜いたうえで指導できるんですよね。

 もし部下を人格を否定するような言葉で叱責する人が管理職の地位にいるのであれば、その会社はパーソナリティーに問題のある人を見抜けずに出世させる会社だということです。その会社に長くい続けても自分のためになるかどうか疑問です。

 それに、必ず誰にだって……それこそ上司にだって、弱点はあるんですよ。「人格否定のような言葉をかけてくるなら、あなたこそそういう感情的な言い方をやめてくださいよ」と言いたくなりません?

──たしかに(笑)。すぐに感情的になってしまう人は、それが弱点だと思っていないのかもしれませんね……。

本田:要するに、どんな人でも、どうしても改善できない弱点を持っているんです。たまたま、発達障害の特性がある人の弱点は、オールラウンダーを求める現代の日本社会では目立ってしまうというだけで。

 日本では、「みんなと同じ」「和を乱さない」ことを求められすぎるので、とにかく弱点を直すことを本人の責任として考えがちなんですけど、本当は、お互いの弱点をカバーし合う関係性が理想なんですよね。生まれつきの弱点はなくならないことを自覚した上で、みんなで弱点から逃げ回りっこしましょうよ、と。

──いまの仕事があまりにつらい人は、お互いの弱点を自然にフォローし合えるような職場を見つけることも視野に入れてみてもいいのかもしれませんね。

本田:会社にいればいるほど苦しさが募っていくようであれば、きっと上司や会社との相性が悪いのでしょう。「途中で投げ出すのはよくない」という思い込みにとらわれて無理に仕事を続けていると、心身の調子を崩してしまうこともあります。

 大事なのは、苦しいときほどやり直しをためらわないこと。「会社にしがみつかなくてもいい」「投げ出してもいい」「弱音を吐いてもいい」と考えてみてほしいです。もっと自分中心で生きても大丈夫なんですよ。

「上司ガチャ」で外れを引いたらいつまで耐えるべき? 見極めるための3つの質問本田秀夫(ほんだ・ひでお)
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長 特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事 精神科医。医学博士
1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より、同子どものこころの発達医学教室教授。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。日本自閉症スペクトラム学会会長、日本児童青年精神医学会理事、日本自閉症協会理事。2019年、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)に出演し、話題に。著書に『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』(ダイヤモンド社)、『自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体』『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(ともにSBクリエイティブ)、共著に『最新図解 女性の発達障害サポートブック』(ナツメ社)などがある。

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