「青山学院中等部」が新校舎で“教科センター型”を採用した3つの理由教科センター型の採用に伴い、以前から特別教室のある理科以外の教科でも学びの情報発信力を高める共有施設「メディアスペース(MS)」が、教科ごとに設置された。プレゼンやグループ学習、自由時間にと、生徒がさまざまな過ごし方に使うことができる。 (1)社会科のMSでは、土器の実物や時代ごとの歴史資料、地図など多彩な展示物が好奇心をかき立てる (2)数学科のMSは吹き抜け構造で、床のタイルはノーベル物理学賞受賞者・ロジャー・ペンローズ氏考案の「ペンローズ・タイル」を再現 (3)生徒の作成した多面体の展示スペース (4)数学関連の書籍がいつでも閲覧できる (5)屋外には生物科のビオトープも
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教科センター型の採用で変わったこと

――現状ではコロナの影響で実現できていないということですが、教科センター型を採用した理由はどのようなものだったのでしょう。

上野 これからの教育を考えて、いくつかの視点を踏まえて切り替えました。

 まず、教育的な効果として、座っていれば先生が入ってきて授業が始まるという受け身の姿勢から、理科の実験室などと同じように英語・国語・社会などでも各教科の教室に自ら向かっていく能動的な態度を身に付けてほしい、というのが一つです。

 2つ目は、ICT(情報通信技術)を活用した教育を進めていく上で、私たち教員がより専門性に特化した授業を行いたいということからです。教員が10分間の休み時間に毎回教室を移動するとなれば、パソコンをセットするのがやっとで、どこかで内容的に妥協しなければなりません。しかし教科センター型ですと、あらかじめパソコンを教室でセットするといった準備をしておけば生徒が来ればすぐ授業が始められ、また、パソコン以外にプラスアルファの教材の準備もできますし、何より、休み時間に生徒から質問を受けるといった交流の時間が増え、より質の高い授業を行うことができます。

――教科ごとに移動するとなると、他学年のフロアにも行くことになりますね。

上野 他学年や他クラスの生徒とも、移動時に廊下ですれ違う際などお互い刺激を受けて学習意欲を高め合っていけると思います。これが採用した三つ目の理由です。テレビなどで最先端のIT企業のオフィスや新しい大学の図書館などが紹介されるのを何度か見ましたが、同じようにさまざまなセクションの社員が交流できるスペースを設けていたり、また、最先端の大学図書館や研究所なども以前のような静かなスペースだけではなく、学生や研究者たちがアイデアを出し合い討論したり、協働で研究するスペースが多く設けられているのをよく見ます。これらの例のように、これからの教育に大切なのは、人とコミュニケーションを取りながら、コラボレートしていく力だと思います。

 今回新しく、教科ごとにメディアスペース(MS)を設けました。例えば社会科であれば、従来なら歴史の授業でしか見せられなかった各時代の資料を常時展示したり、いろいろな地図を掲げておけますし、生徒の課題作品の展示などもできています。それによって、生徒たちは同じような課題を出された時に参考にでき、同級生の優れた作品に刺激を受け、さらに高いレベルのものを目指す生徒も出てきます。

 プレゼンテーションやグループ学習、その教科に関心のある生徒が通りがかりに書籍を手に取ったりもできますし、自由に過ごす場にもなります。実際、休み時間になると社会科が好きな生徒たちは、おのずと社会科のMSに集まります。隣接した教科準備室の教員は、そこに来た生徒たちとすぐに、学年を超えたより高度な内容の話をすることができ、以前よりも頻繫に交流することができるようになりました。

――教科センター型は、高等部でも導入されているのですか。

上野 先に校舎を建て替えた高等部は、以前と同様のホームルーム型の校舎です。

―――幼稚園から大学院までが同じキャンパス内にあるとはいえ、青山学院の場合は各学校の独立性が強いのかもしれませんね。

上野 中等部の学年定員は256人ですが、そのうち半分は初等部(付属小学校)からの内部進学生です。同様に、高等部でも新たに募集をしますので学年定員は420人と多くなります。こうした規模の違いも、高等部が教科センター型を採用しなかった理由の一つかもしれません。ただ、一貫校の良さとして、クラブ活動や行事などでの交流は行われており、先日行われた青山学院グローバルウィークでは、大学の国際会議場で国連WFPの方々とSDGsをテーマとした中高生合同のフォーラムなどを行いました。

「青山学院中等部」が新校舎で“教科センター型”を採用した3つの理由(1)メディアセンター(図書室)も吹き抜けで開放的 (2)(3)2階部分ではICT教室とミーティングルームが隣接し、プログラミングの授業などを行っている
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