ただし年契約を原則とすると、そのプロダクトの価値の仮説検証は難しくなってしまいます。解約率は、プロダクトが本当に利用されているのかどうか、価値を感じていただけているのかどうかを知るためには、厳しいけれども重要な指標です。それが年単位での契約期間しかないということになると、年単位での解約しか発生しないことになり、仮説検証のスピードが大きく劣ってしまうことになるのです。

 この問題を解決するために、「契約の基本期間は月単位だが、年契約の場合はディスカウントがある」という料金体系を採用するサービスも多くあります。これであれば、しばらくは月単位で利用して、年単位で使ってもいいと確認できれば年契約に移ってもらうことが可能になります。事業者にとっても、ユーザーにとってもメリットのある方法です。

 こうしたサブスクリプション、もしくは継続利用により収益を上げるサービスでは、KGI(Key Goal Indicator:ビジネスゴールを示す指標)、KPI(Key Performance Indicator:KGI達成の鍵となる評価指標)に、何らかのかたちで収益の数字が反映されます。解約率が月単位で把握できるようになっていると、KPIツリー(KGI達成のために必要なKPI同士の関係性をツリー上に表したもの)の作成がやりやすくなり、プロダクト改善のための指標がつくりやすくなります。

サブスクで可視化される
ビジネスの成功方程式

 一括購入モデルでは、売れてしまえば使われようが使われまいが収益は変わりませんが、サービスやプロダクトの改善のために何を変えればいいか、分からないことが多くなります。サブスクリプションモデルでは、継続利用されるかどうかが収益に直結するので、プロダクトづくりの観点で、さまざまな指標を埋め込むことができます。そして、その指標に比例するかたちでユーザー数を伸ばしたり、アクティブユーザー率が伸びたり、ひいては収益が上がるといった、因果関係がハッキリした方程式をつくることが可能になります。

 仮説を立て、施策を実際に実行した結果、KPIツリーのどこかの指標が上がれば仮説検証が進みます。すると、どの施策を打てばこの指標が上がるという打ち手を数多く持つことができるようになります。それらは全て、今後さまざまなアクションを起こすときに、資産として利用できるようになります。そのことこそが、サブスクリプションモデルを取り入れることのメリットだと思います。

(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)