「三字熟語」を学べば、「語彙力」も身につく

なぜ「三字熟語」を知ると語彙力がつき、文豪の世界を味わえるのか?
高橋朋宏(たかはし・ともひろ)
ブックオリティ代表取締役兼学長
慶應義塾大学商学部卒業後、PHP研究所に入社。海外営業部門を経て、雑誌編集者となる。サンマーク出版で新雑誌の創刊編集長となるも、大赤字を出し、やむなく書籍編集者に転向する。2005年、満を持して手がけた『病気にならない生き方』(新谷弘実著)が140万部のミリオンセラーとなる。2011年、『人生がときめく片づけの魔法』(近藤麻理恵著)が2冊目のミリオンセラーとなり、世界1200万部を超える大ヒットとなる。2018年、本の書き手となる「一流のヘンタイたち」を世の中から発掘すべく、サンマーク出版常務取締役編集長の職を辞して、ブックオリティを創業。現在、「世界を変える著者になるブックオリティ出版ゼミ」「あの本の編集者に学ぶベストセラー研究サロン」を主宰。通称、タカトモと呼ばれている。

──タカトモさん、そうだったんですね。西角さん、まだ読まれていない読者のためにどんな中身の本なのか、少し紹介していただいてもいいでしょうか?

西角:「世にも美しい三字熟語」は、これまでにない、新しいやり方で「語彙力」をつける本です。四字熟語ならよく知っているという人でも、三字熟語となると実はまったく歯が立たないという現実に直面します。「国語が得意だ」という人も鼻をへし折られるかもしれません。それくらい三字熟語について、私たちは無知蒙昧の輩なのです。

四字熟語は仰々しくて、上から目線で、教訓めいた言葉が多いのですが、それに比べると、三字熟語には、軽やかで、庶民的で、思わずクスッと笑ってしまうような言葉や日本の情景を映し出す美しい言葉がたくさんあります。三字熟語のおもしろさを知ってもらいたい、気づいてもらいたい。そんな「三字熟語ラブ」な思いが高じて、ちょっとした「三字熟語クイズ」をつくっては、まわりの人に解いてもらってきました。本書は、基本的に穴埋めクイズで、「三字熟語」の真ん中の一文字を考えるだけです。ただ、やってみるとわかりますが、前後の二文字をヒントに真ん中の一文字を考えるのは意外と難しいものです。しかも漢字の一文字で答えなくてはいけません。次ページの答えを見れば「なーんだ、知ってるよ」と思われるかもしれませんが、言葉を「聞いたことがある」のと、文字として「読める・書ける」には大きな違いがあります。後者のレベルになれば、「漢字を知っている」「語彙力がついている」人の証といえます。また、「三字熟語」の用例は、日本文学の名作に依拠したので、文豪たちが紡いできた味わい深い文章表現にも触れられます。

読み始める前に、本書のカバーをご覧ください。三字熟語という黒字のタイトルの両側に、美しいピンクの三字熟語が8つ並んでいます。いずれも本書に出てくる「朧月夜」「素頓狂」「麒麟児」「頓珍漢」「綺羅星」「五月雨」「雪月花」「安本丹」「大団円」です。実は、こちらをお読みいただいてから、自分の好きなページを自由に開いていただきたいのです。すると、「三字熟語」が勢いよく力強く目に飛び込んできて、印象に残るようになっています。

──四字熟語に比べて、たしかに三字熟語って軽やかで滑らかで美しく感じます。三字熟語の真ん中の一文字を抜かれてしまうと、意外に思いつかないもんだなと、思いました。そして、三字熟語を思いついても、なかなか漢字を思いつかなくて、唸りながら考えるのも楽しいです。今回は153の三字熟語を紹介いただいていますが、この本をつくるのは、引用する参考文献を探すのも含めて大変だったのではありませんか?

西角ありがとうございます。おっしゃる通り、この本づくりはとても大変でした(笑)。前例がなく、すべてが手探りだったからです。まず、三字熟語の選別です。三字熟語の候補を300くらいあげてから200に絞りました。選別の基準は、面白さや美しさ、そして、語感です。実は、「三字熟語」の構造って、とてもシンプルで、二つだけなんです。ほとんどが、「二字熟語」+「一字」。式を立てると「□+□□」か「□□+□」。これは一字の意味を重く見ます。受験では上に「非」「不」「未」「無」をつけて打ち消し(否定)にするか、下に「的」「性」「化」「然」をつけると覚えます。もう一つは、「一字」が対等に並んでいる「□+□+□」。こちらはあまり多くありません。今回は日常語や受験用語で使われる三字熟語、例えば「非常識」「不安定」「未完成」「無理解」「一般的」「可能性」「合理化」「学者然」「上中下」「衣食住」などは避け、できるだけ魅力的な三字熟語を見つけるように尽力しながら、最後の最後まで絞っていきました。

次に、引用する参考文献を探すのも大変でした。ただ、打ち合わせの時に、編集担当の土江さんとタカトモさんが「必ず出典を明示できる引用文をつけてください」とおっしゃったのが救いになり、それをルールにして進めました。もし、それがなければ、迷子になるか、途中で空中分解していたかも知れません。参考文献を探すことは、暗闇の遥か向こうに小さな一点のともしびを見つけたような気がしました。

200に絞った三字熟語すべてに、辞書やネットから引用できそうな参考文献を探しだします。一つの三字熟語に3つから4つの文献を選びました。それらの中から三字熟語の魅力をより伝えられる文献を選び出すために、すべて読んでいきました。短編も長編もありましたが、全部で700編は読んだと思います。

最後まで読んでも、三字熟語がひらがなになっていたり、一度も出てこなかったりしたものもあったので落胆したこともありましたが、三字熟語にピッタリの文献が見つかったときは本当にときめいて、文豪に感謝と尊敬の念を抱きました。

──本当にお疲れ様でした。西角さんのご尽力で今までにない「三字熟語」の本になりました。三字熟語を世の中に広める「先覚者」として、メディアでも是非ご活躍いただきたいと思います。最後に読者の皆様へメッセージをお願いいたします。

西角「世にも美しい三字熟語」は、読者の皆様に楽しんでいただけるようにたくさんの工夫をしました。選りすぐりの153の三字熟語のクイズは、楽しみながら語彙力や教養がつきます。自分ひとりで解くのもよし、職場や家庭で、わいわいガヤガヤ言いながら解くのもよしです。一般的なクイズ本とは全く違う構成ですので、言葉の持つ意味や由来はもちろん、夏目漱石、太宰治、芥川龍之介、北大路魯山人、上村松園、吉川英治、瀬戸内寂聴、向田邦子など、人気作家や芸術家の作品や人間味あふれるエピソードが楽しめます。用例には厳選した作品群から引用文を載せました。スッキリしたページレイアウトで三字熟語がより際立ち、文字も大きくとても読みやすいつくりです。短時間の読書でもより深い内容が身につく「世にも美しい三字熟語」。日本語のもつ豊かな教養の世界に魅了されると思います。ぜひ、三字熟語の楽しさに浸ってみてください。