四字熟語と比べると、三字熟語って耳慣れない言葉ですが、「雪月花(せつげっか)」「五月雨(さみだれ)」「朧月夜(おぼろづきよ)」のような日本の景観や四季折々の風物を表す美しい言葉をはじめ、「安本丹(あんぽんたん)」「頓珍漢(とんちんかん)」「素頓狂(すっとんきょう)」などの思わず笑ってしまう言葉、「大団円(だいだんえん)」「知情意(ちじょうい)」「不如意(ふにょい)」などの使うとかっこいい言葉など、三字熟語の世界は多彩です。今回は、『世にも美しい三字熟語』の著者、西角けい子さんに奥深い三字熟語の世界について聞いた。(構成・編集部)
韋駄天という三字熟語は、
まるで、神さまが本当に走っているように見える
──出版おめでとうございます。この面白い企画はどうやって生まれたんですか?
ステージメソッド塾代表/学習コンサルタント/三字熟語愛好家
オムロンを退職後、日本有数の大手塾の激戦区である兵庫県西宮北口にステージメソッド塾を開業。
国語力を急伸させる独自の「ニシカド式勉強法」により、わずか6ヵ月でごく普通の成績だった7名の塾生を日本一(全国版学力テスト)に育て、多くのマスコミから取材される。「お母さんの言葉がけ」と、「暗記力」「ノート力」「作文力」アップを重視した「ニシカド式勉強法」は定評があり、倍率10倍以上の超難関公立中高一貫校に、14年連続地域No.1の合格者を出している。片道3時間以上かけて通う小学生や新幹線や飛行機で通塾する中学生もおり、塾周辺に転居してくる家庭も多い。
ひょんなことから、国語の世界で影が薄い「三字熟語」のおもしろさに気づき、軽やかで、庶民的で、思わずクスッと笑ってしまう三字熟語にハマる。三字熟語ラブな思いが高じて、三字熟語クイズを作り始めた。夏目漱石や太宰治などの文豪が使う「三字熟語」の巧みな表現にしびれ、文豪の人間味や生き方に興味を抱き、文豪の出生地巡りや墓参りをしながら、「三字熟語」の探究を続けている。
西角けい子(以下、西角):ありがとうございます。「三字熟語」の企画は、2019年1月に生まれました。私は、兵庫県の西宮北口という地域で、「ステージメソッド塾」という国語力を重視した学習塾を開いています。そこでは、「ニシカド式勉強法」という、私のオリジナルの学習法を教えており、平均点以下の子どもたちを学力日本一に育てるなど、これまで大きな成果を上げてきました。その秘訣は、学習手順がひと目でわかる図にあります。実は、「三字熟語」は、その中の学習手順の一つでした。
「ニシカドさん、三字熟語って、面白いね!」見つけてくださったのは、タカトモさんこと、高橋朋宏(たかはし・ともひろ)さんです。タカトモさんは、出版界のレジェンドの編集者で、日本だけでなく世界でもご活躍されており、ミリオンセラーやベストセラーの数々の書籍を編集されました。現在は、「本のチカラで世界を変える」という旗を掲げて、ブックオリティという会社をされており、著者の発掘や育成に力を注いでおられます。
「三字熟語」は、「四字熟語」やことわざに比べると、受験の世界では脇役でしたので、タカトモさんの言葉に、はじめは「?」と思いました。が、いざ「日本語」としてみると、「四字熟語」よりも親しみがあり、語感もよく、面白く感じたのです。なにより、日本文化に関係のある言葉も多く、その美しさに魅了されました。
──タカトモさんは、「三字熟語」のどのあたりが面白いと思われたのですか?
高橋朋宏(以下、高橋):「四字熟語」という熟語の世界があるのは知っていたけど、「三字熟語」という言葉があるのは、知らなかったんですよね。編集者なのに(笑)。「あ、これは盲点だ!」と直感しました。「一張羅(いっちょうら)」「猪口才(ちょこざい)」「仏頂面(ぶっちょうづら)」「素寒貧(すかんぴん)」みたいな三字熟語を眺めていると、それらが持つ言葉の響きや漢字の並びの面白さが伝わってきますよね。いまではあまり使われなくなりつつある言葉だからこそ、ある種の懐かしさと新しさを覚えました。
例えば、「韋駄天」。「韋駄天」は足の早い神様のことだが、この韋駄天という三字熟語は、まるで、神さまが本当に走っているように見える。また、「い・だ・てん」という語感もいい。僕みたいな言葉のオタクや日本語好きにはたまらない。このあたりが、とても面白く感じられました。