「腹落ち」していない人は変われない

――そういえば『SF思考』が出版されてから、「実は自分もSFが好きで……」と、こっそりカミングアウトしてくる人が多くて、ちょっと戸惑ってるんですよね。ビジネスの場で好きなものを公言しにくい雰囲気があるのでしょうか。

 日本で会社員として適応している人は、自分の意志をはっきり言葉にする機会が極端に少ないということが関係しているでしょうね。

 昨年、ユニークな人材開発に取り組んでいるIWNCの「リーダーシップジャーニー」という研修プログラムに参加しました。GEやLIXILで人事の責任者を歴任された八木洋介さんが関わっているプログラムなんですが、その研修内容がすごい。大企業の幹部を真冬のモンゴルに3泊4日で連れて行って、馬に乗せたり、氷点下30〜40度の厳寒の雪原に放り出したり……。最後は1人ずつ岩山に立たせて人生の目標を語らせるという(笑)。僕は調子よくしゃべりましたが、立派な経歴を持つ幹部の方々からは、意外になかなか言葉が出てこないのです。

――ひょっとして、人生について最後に考えたのが就活のときだったとか…。

 そうかもしれません。仕事を通じて自分の意志を言葉にする作業、つまり「暗黙知の形式知化」をしていないんですね。SF思考も「自分がやりたいこと」を他人に伝わるように形式知化する手段だと僕は理解していて、あくまで大事なのは意志です。これからの時代は正解なんてありません。「何をすべきか」なんて誰にも分からない。僕も分かりません。だからこそ「何をやりたいか」がないとどこにも進めないのです。

 日本の会社員の問題って「自分の働く意味が腹落ちしていないこと」ではないでしょうか。「自分は何のために働くか」という意志が明確でないまま、上から降ってくる仕事をこなすだけでは、どんなに優秀な人でもリスクが取れないし、変化もできません。日本式のメンバーシップ型雇用って、いわば腹落ちしてない会社員をうまく使い回す仕組みなんですよね。今まではそれで良かったかもしれませんが、これからはそれでは通用しません。

――今、企業経営においてパーパスが重要視されているのも、企業としての意志を明確にして、腹落ちさせようという動きですね。

 そうなんですが、多くの日本企業はパーパスをうまく作れません。経営者の任期が短いからです。経営がうまくいってるなら、同じ社長が20年でも30年でも経営すればいいのに、なぜか2年2期とか3年2期とか決めちゃう会社が多い。そんなことしたら「任期中だけうまく乗り切ろう」と考えるのが当然だし、パーパスを作ってもしっかり浸透させる時間がありません。もちろん、その先の責任も取れません。

 米国の化学企業のデュポンは「100年委員会」とでもいうものをつくって、超一流の専門家を呼んで100年先の未来像について経営陣が真剣に語り合っているそうです。ドイツのシーメンスも、遠い未来を見据えた先行投資を行っています。そして「IoT」という言葉なんて全然なかった四半世紀も前からIoT技術に投資してきた。だからこそ今業界をけん引する存在になっているのです。ここ数年で慌てて取り組んだ日本企業が勝てるはずがありません。