未来を意味付けることから「納得」が生まれる
――日本企業が長期的な時間軸を持つためには何が必要でしょうか。
まず、経営者の任期制なんてやめることですね。実際、日本でもグローバルで強いオーナー型の企業の経営者は、SF的な思考をしています。日本電産会長の永守重信さんは「10兆円企業になる」という目標を語るとき、常に「やがて自家用ドローンが普及し、ロボットの数が人口を超える」という未来像もセットで語ります。すると「確かに、世界中の人がマイドローンとマイロボットを持つようになれば、モーターの需要がものすごく増えるから、日本電産は成長するよね」と人は思う。永守さんがSFを読んでいるかどうかは知りませんが、描いているイメージはSFそのものだし、やっていることはSF思考です。
優れた企業、優れた経営者は時間軸が長い。「何年先の未来まで想定していますか?」と聞くと、ビジネスがうまくいってる経営者は30年ぐらい先は普通に見据えています。日本電産の永守さんはもちろん、ロート製薬会長の山田邦雄さんもそうです。ソフトバンク会長の孫正義さんに至っては「300年ビジョン」まで語っていますよね。
――いい商品があるだけでは駄目で、未来像まで伝えないと売れない時代になっていくと。
すでにそういう時代です。だから遠い未来が描けない企業は時価総額が低い。テスラを見てください。イーロン・マスク氏が未来を語りまくっています。あんなのたわ言だと言う人もいますが、現時点で可能性が低くても「このビジネスが発展すれば何十億人もの人が幸せになれる」という未来像はポジティブだし、共感する人が多ければ多いほど実現する可能性も大きくなります。経営者が語る未来像に社員が腹落ちして「一緒にやっていこう!」という人が増えれば増えるほど、着実に実現に近づくんです。
――社内に向けた丁寧なコミュニケーションがすごく大事になってきますね。
めちゃくちゃ大事です。一昨年出版した『世界標準の経営理論』では、世界の経営理論を網羅的に紹介しましたが、僕は、この中で一番大事なのが「センスメイキング理論」だと思っています。日本語で分かりやすくいうと「腹落ちの理論」です。不確実な時代ですから、未来なんてどうだって解釈できる。それをいかに腹落ちできるストーリーにまとめて、意味付け(センスメイキング)できるか。「正確性より納得性」なんです。『SF思考』にも5本の小説の実例が示されていましたが、まさにあれです。
ただし、分かりやすさでいうと、小説より映画の方がいい。映画といっても5分のショートムービーでいいんです。ネスレ日本の社長を務めた高岡浩三氏も、国際短篇映画祭の代表もしている俳優の別所哲也氏と組んでブランドの世界観を表現するショートムービーを作っていました。
建設現場をスマート化することでグローバル市場で大きく成長しているコマツも、出発点はSF思考です。現執行役員の四家千佳史さんが十数年前に当時の社長に「なんか新しいこと考えろ」と言われて、「バリューチェーンを横断して価値を出さないといけない」と進言した。その未来像を「スマートコンストラクション(スマコン)」と名付けて、さらに「スマコンが実現した世界」をショートムービーにしたというんです。腹落ちできる未来像の提示です。
四家さんはもともと起業家ですからこういう発想ができますが、1つの企業の中の世界しか知らない人には難しい。そこで発想を変える手段としてSFを使うのは非常にいいと思います。メディア制作のコストはどんどん下がっていますから、どんどんSF的な動画を作っちゃえばいいんです。