個人のプライバシーは
既に第三者へさらされている

 では次に、「そんなものを手に入れて、寓話の国王の謀略みたいなものにひっかからないのか?」という心配についてはどうでしょうか?

 ここは私の物の見方がみなさんとは少し、「ズレている」かもしれません。私は未来予測専門の経済評論家として、2020年代を通じて日本だけではなく世界各国がデジタル監視国家群へと進化していくという未来が必ず来ると想定しています。

 昔の刑事ドラマでしたら、犯人がどこかで罪を犯して、必死に証拠を隠して現場を立ち去り、はあはあ言いながら自宅に戻ったとして、ドラマは犯行現場から始まったものです。

 しかし現代では、犯人が自宅に戻った数時間後に警察がピンポーンとドアのベルを鳴らします。そこら中にある監視カメラ映像をリレーすることでスピード逮捕が可能な時代です。

 20年前の9・11テロの際、FBIが迅速に犯人グループを特定し、実行犯以外の後方部隊を一斉に逮捕した際にどのような情報源が一番役に立ったのかご存じですか? 答えは小売店のポイントカードです。

 アメリカにあれだけの衝撃をもたらした攻撃だったということが前提にあったのですが、当時は、ほとんどのアメリカ企業が捜査に全面協力しました。FBIは小売店から提供された実行犯の購買履歴を追いかけながら、同じ小売店で似た購買履歴を持つ人を見つけ、それをたどることで容疑者を絞り込みました。「同じ犯行グループなら同じ地域・同じ店で買い物をしているはずだ」という推理が、ドンピシャで合致したそうです。

 それから20年、現在進行形のスマホ社会、キャッシュレス社会ではよほど注意深く生きているごく一部の人以外、その行動情報は必ず第三者に把握されています。ただ、みんな法律のルールを守っているので個人情報のプライバシーが侵害されていない。それが現代社会です。

 戦前を体験している先輩世代が教えてくれたのが、戦前は特高(特別高等警察)が図書館の記録を調べて思想犯を摘発していたという話です。現代でもそういった履歴を調べられると個人の思想がバレますが、それは法律でやってはいけないことになっています。

 ドラマ『相棒』シリーズで唯一の封印作品があるのですが、それは杉下右京さんが図書館の司書を通じて、容疑者の情報を教えてもらった回でした。現実にそんなことはできない、と図書館から猛抗議があって、再放送は今後もされないそうです。