世の中に確かなものはない。まず期待すべきは自分だけ
――ビジネスでも、自分がどう感じてどう考えるかがもっとも重要で、俗に言うマーケティングはあてにしないそうですね。
中野 それは単純な理由で、世の中に確かなものはありませんから。だから何でもやってみなくちゃ分からない。重要なのはどうやるか、ですから。
安心、安全と思ってやったことが、実際そうじゃなかったっていう話は世の中にいっぱいあるでしょう? 我々は不確かな世の中を生きていて、世界は曖昧なもので成り立っているんです。
それなのに、すでに過去のものとなった数字や事例を持ち出して確かなものを求めようとすることがナンセンスですよね。
何をやれば成功するか、本やネットで答え探しをしている人も多いと聞きますけど、そのようなもので成功するならみんな成功しています。
ビジネスをやるとき、うまくいくかどうかなんて僕は気にしたことがありません。その代わり、本当にそれでいいと自分が納得できるか?を何よりも重視します。そしてどうやるか? を考えます。
リーダーはそれくらい自分に期待して、自己に忠実に判断するものです。
――どこかの成功事例を真似したり、過去の実績を参考にしたり、前例主義で仕事をしている人も多いと感じますが。
中野 「今までこうだったからこうすればいい」といった前例主義の人は、リスクを負いたくないんです。自分で考えたくないし、何の独創性も求めない。そういう人は、強い事業は作れません。
つまりオンリーワンにはなれない。日本で前例主義がいまだになくならないのは、家庭でも学校でも社会でも、オンリーワンが育ちにくいルールを作ってしまっているからです。
前例を参考にしなければ何をすればいいかわからない、という人もいますが、何をすればいいか考えちゃうからわからなくなるんです。大脳で考えるではなく、現場に立って自分の心、感性と向きあうことで気が付いたことを実行すれば良いのではないかと思います。
目の前にあることを自分がどう思うか、どうすれば自分が納得できるか考えれば、やるべきことは見えてくるはずです。
「素」の自分をさらけ出せばいいんです。お腹が空いたら目の前にあるもので一番食べたいものを探すのと同じです。それ以外、余計なことは考える必要はありません。
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ACAO SPA & RESORT代表取締役会長・CEO
東方文化支援財団代表理事
寺田倉庫前代表取締役社長兼CEO
1944年生まれ。弘前高校、千葉商科大学卒業後、伊勢丹に入社。子会社のマミーナにて、社会人としてのスタートを切る。1973年、鈴屋に転社、海外事業にも深く携わる。1991年、退社後すぐに台湾に渡る。台湾では、力覇集団百貨店部門代表、遠東集団董事長特別顧問及び亜東百貨COOを歴任。2010年、寺田倉庫に入社、2011年、代表取締役社長兼CEOとなり、2013年から寺田倉庫が拠点とする天王洲アイルエリアをアートの力で独特の雰囲気、文化を感じる街に変身させた。2018年、日本の法人格としては初となるモンブラン国際文化賞の受賞を果たす。2015年12月、台湾の文化部国際政策諮問委員となる。2019年に寺田倉庫を退社。地域や国境を越えた信頼感の醸成をはかり、東方文化を極めたいという飛躍したビジョンを持つ東方文化支援財団を設立し、代表理事に就任。国内外のアーティスト支援を通して、地方再生やアジアの若手アーティストの支援などを行っている。2021年8月、ホテルニューアカオ(ACAO SPA & RESORT)代表取締役会長CEOに就任。
著書に『ぜんぶ、すてれば』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『孤独からはじめよう』(ダイヤモンド社)がある。