コロナ禍によって人と人との距離が遠くなり、誰もが「孤独」を感じやすい今。「相談できる人がいない」「自分一人で判断するのは難しい」と頭を抱える人は多いだろう。しかし、国内外の企業で数々の経営再建に携わり、NHK「SWICHインタビュー達人達」でコシノジュンコ氏と対談、著書『ぜんぶ、すてれば』は4万部超のベストセラーとなるなど、今注目を集める「77歳・伝説の経営者」中野善壽氏は、「個」を磨く「孤独」こそ最強の武器になると、11月17日に発売された最新刊『孤独からはじめよう』で述べている。
世界に1人しかいない自分の個性を信じ、感じること、考えることを楽しみ尽くす。過去にも未来にもとらわれることなく、今この瞬間を全力で生きる。そのためには、ただ素(す)の自分をさらけ出せばいい。本当に自分が納得できることだけやればいい。そのような生き方で他人に依存することなく、数々の企業で成果を出してきた中野氏に、自分と他人の「個」を尊重して価値を生み出す仕組みと考え方について聞いた。
(取材・構成/樺山美夏、撮影/疋田千里)
人が動きたくなるのは「成果給」ではなく「期待給」
――『孤独からはじめよう』を読むと、中野さんは仕事でも人間関係でも自分が「好きかどうか」を重視されています。特に仕事をする仲間は「一緒に働きたいかどうか」で決めているそうですが、採用面接では相手のどういうところを見て判断するのでしょうか。
中野善壽(以下、中野) まず前提として、僕が選ぶのではなく「相手から選んでもらう」、という考え方です。
だから面接では僕が話したいことを45分間くらいベラベラしゃべる。それをちゃんと聞いてくれた人には、「来たいと思ったら来て」と言って終わりです。
僕の目を見て話を聞いてくれて、僕に対して「この人だったら期待できそうだ」と思ってくれた人と一緒に働きたいのです。
実際に入社された人が、「中野さんにはもう期待できない」と思ったら辞めてくれていいんです。「こんな社長じゃダメだ」と思ったら、そんな会社はさっさと辞めたほうがいい。
逆に僕も、相手に対しては期待をかけるので、「成果給」ではなく「期待給」を払っています。「期待給」は、伊勢丹を辞めて27歳で鈴屋に入ったときから、ずっと続けている考え方です。
――期待すると期待通りにいかないこともあるかと思いますが、その場合はどうされていますか。
中野 最初は期待でいっぱいだから、だんだん期待値を下げていくんです。
最初の期待給より上がっていくのは十数人に1人。ほとんどの人は落ち着くところまで下がっていきます。
ただ、期待通りに行かなかったからといって、失敗だとは思いません。人間がやることには失敗も成功もなくて、期待できるかどうかがすべて。結果は気にしないんです。終わったことをあれこれ言ってもしょうがない。
仕事には答えがないわけですから、100点満点の完璧なものを求めても、効率が悪くなるだけで現実的じゃないでしょう。
だから65点ぐらいでいいと思っています。59点以下じゃ落第だからギリギリのラインで65点が目安、80点をとるほどの努力は必要もない。それよりは、スピードとタイミングが大事。余力はまた他の仕事に使ってくれればいいと思っていますね。