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米国の10月の消費者物価上昇率が6%を超えるなど、米国ではインフレ圧力が高まっている。年初には2024年以降とされていたFRB(米連邦準備制度理事会)の利上げは22年に前倒しになりそうだ。しかし、長期金利は大きく上昇していない。その理由は2つある。(SMBC日興証券 チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)

失業率低下、6%超の物価上昇
FRBの利上げは前倒し

 市場参加者が注目した10月の米雇用統計においては、非農業部門雇用者数が前月比で53万1000人増となり失業率は4.6%に低下した。8月、9月の雇用統計は米国内におけるデルタ株の感染拡大の影響を受け、低調な結果に終わったが、これが明確に改善したことをうかがわせる好調な結果となったといえそうだ。

 FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長が早期の利上げの条件として掲げていたのが雇用の最大化であり、インフレ圧力の高まりのなか、完全雇用までの道程の長さが利上げまでの時間軸を長期化させていたのだが、10月の雇用統計は、早ければ22年内の利上げを可能にさせ得る内容であったと考えられる。

 ただ、米国長期金利は好調な雇用統計の結果を受けてもさほど上昇せず、むしろ、その後大きく低下するなどしている。雇用統計の後に公表された10月の米消費者物価は前年同月比で6.2%上昇となっており、これは31年ぶりの高水準である。

 コロナ禍をよりどころとした供給制約(例えば物流の目詰まり)などを背景に米国の物価は上昇しやすい環境にあったが、経済の正常化が遅れるなか、消費の本格的な回復も遅れており、企業はコストの上昇を価格に転嫁するのをためらってきたといえる。

 ただ、原油高によって看過し難いコスト上昇が生じ、他方、雇用情勢の改善に伴い人件費も上昇傾向となりつつあるのが現状であり、そのようななかで10月の物価上昇率は驚くべき水準に到達している。FRBは企業による過度な値上げの動きを牽制(けん制)すべく利上げを行うべき、との論調も増えつつあるのだが、それでも米国長期金利はなかなか上昇しない。

 10月の米雇用統計に先立って、米財務省は利付国債の発行減額を発表し、22年1月以降のさらなる発行減額を示唆した。これが長期金利の低下要因とする声もあるが、ただ、11月からはFRBが国債買入額の減額(テーパリング)を行っており、国債需給についてはFRBの買入減額を財務省の発行減額が相殺するようなニュートラル状態であるといえる。少なくとも長期金利低下要因ではなさそうだ。

 では、何が低下要因なのか。