インフレ加速が日本と中国以外では懸念され始めた。米連邦準備制度理事会(FRB)の超金融緩和がもたらした商品相場の高騰が加わり、コロナ禍によるインフレが一時的といえなくなったことが背景だ。ゼロ金利解除、そしてテーパリング(量的緩和縮小)終了のタイミングが早まるリスクが高まるが、大きなジレンマにFRBは直面する。(BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト 河野龍太郎)
デルタ株感染拡大で米国のインフレ加速と
金融政策の行方のシナリオが変化
日本と中国を除くと、世界中、どこもかしこも主要国は、インフレ加速が話題である。思ったより早いタイミングでFRBはゼロ金利の解除に踏み切るのだろうか。
筆者は、10月に入って、米国のインフレ見通しとFRBの金融政策について見方を変更した。新型コロナウイルスのデルタ株の感染が広がった際、インフレ上昇はもはや一時的とはいえなくなった、と考えを改めたこともあるが、それだけではない。FRBの超金融緩和が生み出した投機マネーの流入で、コモディティ(商品)価格の高騰が始まったため、それがFRBの利上げの前倒しにつながると考えたのである。
米国のインフレ予想が実際に切り上がるかどうかは、今後6カ月間、あるいは1年間のマクロ経済動向、金融市場やコモディティ市場の動向に大きく左右される。筆者自身は、実際には、インフレ予想はさほど大きくは変わらないといまだに考えているが、以前ほどの確信が持てなくなった、というのが正直なところだ。以下、詳しく論じよう。
まず、デルタ株の感染拡大でこれまでのシナリオが大きく変わったのは明白だ。基本再生産数の高さから、ワクチン接種戦略による集団免疫の獲得が困難になった。有効な治療薬が普及するまで、コロナ禍は継続する。長期にわたって、程度はともあれ、人々の経済活動が抑制されると同時に、供給制約が価格押し上げに働く。
7月以降のアジア新興国における工場停止に伴うグローバル・サプライチェーンの寸断は、既に終息が見えてきた。ただ、ボトルネック問題の根幹は他のところにある。これまで移民労働に大きく頼ってきた米国では、労働移動の摩擦もあって、小売りや飲食、宿泊だけでなく、運送や建設などの現場で、エッセンシャル・ワーカーのスムーズな採用が滞っている。
その結果、ペントアップ需要が旺盛でも、財・サービスの供給拡大にはつながらず、賃金上昇や価格上昇が引き起こされる。デルタ株で経済の完全正常化が早期に見通せなくなったことで、企業や家計のこうした動きがより強まる可能性がある。景気回復そのものを損なうわけではないが、当初想定されていたよりも成長ペースはかなり鈍くなり、インフレ率が高めとなるのは避けられない。