決算書100本ノック! 2021冬#4Photo: AFP=JIJI

国内製薬トップの武田薬品工業は株価の割安・割高を知る指標「PBR」で、競合より激しく見劣りする。巨額企業買収で企業価値をいったんは上げたものの、同時に貸借対照表(バランスシート、BS)の「ある勘定科目」が増えたことがブーメランとなっているのだ。特集『決算書100本ノック! 2021冬』(全16回)の#4では、武田薬品独自のBSの推移を考察する。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)

株価低迷の武田薬品
遂にPBRが1倍を切る

 国内製薬トップ、武田薬品工業の一部株主が落胆している。

 発端は10月6日朝発表の適時開示。開発パイプラインの中で最も大型化が期待されるナルコレプシー治療薬群にあって、一番進んでいた開発剤「TAK-994」の臨床第2相試験切り上げ終了のアナウンスだった。投与患者で安全性の懸念が生じたためだ。

 投資家の失望は大きく、株価は発表前日終値の3567円から約10%ダウン。11月16日終値時点でも3265円と横ばいが続く。

 その結果、株価割安・割高を知る指標「株価純資産倍率(PBR)」は1倍を割り込んでいる。PBR1倍は、時価総額が会計上の会社の「解散価値」(仮に会社を解散した場合に株主に分配される金額、会計上の純資産、自己資本と同じ)と等しいということを意味し、武田薬品の株価は解散価値を下回ったのである。

 武田薬品は10月末、「当社が潜在的に有している価値に対してかなり割安な株価」だとして、13年ぶりに最大1000億円の自己株式取得を発表した。しかし肝心の開発パイプラインで明るい話題に乏しいままで、11月16日時点でのPBRは0.97倍だ。

 武田薬品は2019年1月に、アイルランドのバイオ医薬大手シャイアーを約6兆2000億円で買収し、売上高は3兆円超になった。世界のメガファーマ(巨大製薬会社)の仲間入りを果たし、研究開発費は日本の製薬会社では前代未聞の5000億円台(22年3月期)へ突入した。

 株価が低迷しているとはいえ、武田薬品の時価総額は国内企業で上位30位以内に入る5兆円超(11月16日時点)もある。それでもなぜPBR1倍割れとなるのか。

 実は原因は開発パイプラインへの落胆、つまり時価総額の低下だけではない。財務諸表、特に貸借対照表(バランスシート、BS)をひもとくと、ある特殊な事情が浮かび上がってくる。その特殊な原因を明かすとともに、ライバル各社との比較から武田薬品のPBRが再び向上するのかも考察する。