その3:反対してもコミットする

 3つ目は、「反対してもコミットする」を合言葉にすることです。そうすれば、たくさんの時間を節約できます。みんなが賛成してくれなくても、自分の提案に自信があれば、こう言えばいいのです。「みんな、反対意見があるのはわかるけど、ここは僕に賭けてくれませんか? 反対でもコミットしてもらえませんか?」。話がここまで来ているときは、おそらく正解は誰にもわからなくなっているはずなので、みんなもすぐに賛成してくれるでしょう。

 これは下から上の場合だけではありません。上司もこの言葉を実行するべきです。私もしょっちゅう「反対してもコミット」しています。

 このあいだ、アマゾン・スタジオのあるオリジナルコンテンツの制作を許可しました。私は自分の見方をチームに伝えました。中身が十分に面白いか疑問だし制作が複雑だ、契約条件もあまりよくない、ほかにもっといい機会があるのではないかと意見したのです。

 チームは私の意見と正反対で、制作を望んでいました。私はすぐに返信しました。「反対するがコミットするよ。史上最高に人気のあるコンテンツになるといいね」

 もし私を説得しなければならないとしたら、意思決定がかなり遅れていたはずです。ですが、反対でも支えることにすれば、時間の節約になるのです。

 ちなみに誤解しないでいただきたいのは、私は頭の中で「あいつらは間違っていてよくわかっていないが、あまり追い詰めても無駄だ」と思っていたわけではありません。ただお互いの意見が違っていただけで、私は正直に自分の意見を言い、彼らに私の意見を考える機会を与えたうえで、彼らのやり方を心から支えるとすぐに伝えたのです。

 このチームがこれまでに11回のエミー賞、6度のゴールデングローブ賞、3度のアカデミー賞に輝いていることを考えると、私は話し合いに入れてもらっただけでもありがたいと思っています。

その4:早い段階で上にあげてしまう

 4つ目は、考えの本質的な違いを早めに認識し、すぐに上にあげて処理することです。チームの中で目的が違い、根本的なものの見方が食い違うことはあります。メンバーが同じ方向を向いていないのです。どれほど話し合っても、会議を何度重ねても、深い考え方の違いは解決できません。上の人間が処理しなければ、話し合いが果てしなく続いてみんなヘトヘトになります。誰であれいちばん体力のある者が決断をすることになってしまいます。

 アマゾンでもこれまで、純粋な方向性の違いが表に出たことが何度もあります。たとえば、サードパーティ出品者をアマゾンの商品詳細ページに載せて、直接競合させると決めたときも、激しく意見が分かれました。賢くて会社想いのアマゾン社員の多くが反対しました。大きな方向性が違っていると、無数の小さなことでも意見が食い違います。その多くについて経営陣が処理しなければなりませんでした。

「疲れ果てたからもう終わり」というのは意思決定において最悪のパターンです。判断が遅くなり、気力も削がれます。ならば、早い段階で解決を上に任せるべきです。

 みなさんは意思決定の質だけを気にしていないでしょうか? スピードも気にかけていますか? 世の中のトレンドは追い風になっているでしょうか? プロセスに囚われていませんか? うまく生かせていますか? 何よりも、お客様を喜ばせていますか?

 大企業の規模と能力を持ちながら、スタートアップの精神と心を保つことは可能です。ですが、努力しなければそれはできません。

 私たちがサービスを提供させていただいているすべてのお客様一人ひとりに、支えてくださる株主のみなさまに、勤勉で才能があり情熱を持って働いてくださる世界中のアマゾニアンたちに、心からの感謝を申し上げます。

 アマゾンではずっと、毎日がはじまりの日です。

(本原稿は、ジェフ・ベゾス『Invent & Wander』からの一部抜粋です)

ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)
アマゾン創業者、元CEO。宇宙飛行のコスト削減と安全性向上に取り組む宇宙開発企業、ブルーオリジン創業者。ワシントン・ポスト社オーナー。2018年、ホームレスの家族を支援する非営利団体の支援や、低所得地域の優良な幼稚園のネットワーク構築に注力するベゾス・デイワン基金を設立。1986年、プリンストン大学を電気工学とコンピューターサイエンスでサマ・カム・ラウディ(最優秀)、ファイ・ベータ・カッパ(全米優等学生友愛会)メンバーとして卒業、1999年、タイム誌「パーソン・オブ・ザ・イヤー」選出。『Invent & Wander──ジェフ・ベゾス Collected Writings』を刊行。