伝説の3大セールスレター
「ピアノコピー」「英語の間違い」「2人の若者」

 最初の「ピアノコピー」は、アメリカの伝説のコピーライターで『ザ・コピーライティング』の著者であるジョン・ケープルズ(1900~1990)が、25歳のときに書いた「音楽スクール」の勧誘セールスレターである。

私がピアノの前に座るとみんなが笑いました
 でも弾き始めるとーー

 で始まる印象的なレターでは、楽器なんか弾けるものかとバカにされていた男が、公衆の面前でピアノの腕前を披露し、拍手喝采を浴びる。

 みんながその秘訣を知りたがっていたとき、男はある音楽スクールの存在を打ち明ける。

 そして、どうやって弾けるようになったかを話しつつ、音楽スクールへの入会を促す。みんなからバカにされていた男が、周囲をあっと驚かせる典型的な「ヒーロー・ストーリー」だ。

 次の「英語の間違い」は、アメリカの有名なコピーライター、マックスウェル・サックハイム(1890~1982)によって書かれたセールスレターだ。

 そのヘッドライン「あなたは英語でこんな間違いをしていませんか?」はよく知られ、今でも頻繁に活用されている。

 このヘッドラインは、1919年の『ニューヨーク・タイムズ』の広告に登場して以来、1959年まで、なんと40年間も使われた。

 当時のアメリカは、成人の10人に2人は読み書きができない状況だった。

 そんな時代背景にあって1日15分で正しい英語がマスターできる方法がヒットし、累計15万人以上に支持された。

 このヘッドラインは非常に応用しやすく、様々な商品・サービスにあてはめて使える。「英語で」の部分を「採用で」「ホームページのデザインで」「スマホ選びで」など、いくらでも言い換えられ、汎用性が非常に高い。

 3つ目の「2人の若者」は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』購読のセールスレターだ。

 これは、アメリカのコピーライターであるマーティン・コンロイ(1922~2006)が書いたものだ。

 驚くべきことに、同じものが20年以上使われ、総額数千億円を売り上げ、世界で最も売れたセールスレターといわれている。

 このレターは、冒頭部分で学生時代のよく似た2人の男が描写される。

 そして25年後も相変わらずよく似ていたが、一人は社長で、一人は管理職だった。

 その違いを分けたのは、『ウォール・ストリート・ジャーナル』を読んでいたかどうかの差だったというストーリーに絡めて新聞購読を促す流れだ。

『改訂版 金持ち父さん 貧乏父さん──アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』(ロバート・キヨサキ著、白根美保子訳、筑摩書房)に見られるように、この対比構造は、今でも随所に使われているが、その大元がこのレターにある。

 次回以降に、実際の英文セールスレターと日本語訳を紹介しよう。

 この有名な3つのセールスレターはよく目にするが、その日本語訳はコピーライティングに精通していない人によるものも多い。そこで、我々がコピーライティングの原理原則を理解したうえで丁寧に訳した。

 よくできたセールスレターを声に出して読んだり、書き写したりするのは、スキルアップトレーニングの基本だ。

 セールスレターを手書きで書き写すことを「写経(しゃきょう)」という。写経することで、セールスレターが持つ、独特の書き方とリズムが自然と身につくのだ。

 次回は、伝説のコピーライター、ジョン・ケープルズの「ピアノコピー」について詳しく紹介しよう。

(本原稿は、神田昌典・衣田順一著『コピーライティング技術大全──百年売れ続ける言葉の原則』からの抜粋です)