何歳までこの会社で働くのか? 退職金はどうもらうのか? 定年後も会社員として働くか、独立して働くか? 年金を何歳から受け取るか? 住まいはどうするのか? 定年が見えてくるに従い、自分で決断しないといけないことが増えてきます。
会社も役所も通り一遍のことは教えてくれても、“あなた自身”がどう決断すれば一番トクになるのかまでは、教えてくれません。税や社会保険制度の仕組みは、知らない人が損をするようにできています。
定年前後に気を付けるべき「落とし穴」や、知っているとトクする「裏ワザ」を紹介し、7刷となっている話題の書「知らないと大損する!定年前後のお金の正解」から、一部を抜粋して紹介します。本書の裏ワザを実行するのとしないのとでは、総額1000万円以上も「手取り」が変わってくることも!

遺産相続でもめると家族仲が悪くなるだけでなくお金も「大損」する理由Photo: Adobe Stock

遺産相続でもめると、相続税も高くなる!

 前回の記事で、定年前後は親と相続の話をするのにちょうどよいタイミングだとお話しました。

相続の話というと、「節税」の話に興味を持つ方が多いのですが、どんなに頑張って節税対策をしても、遺産の分け方でもめてしまっては元も子もありません。遺産の分け方でもめるということは、家族の仲をこわしてしまうだけではなく、実は相続税も高くなってしまうのです。遺産分けでもめてしまって、遺産分割が相続税の申告期限までに決まらないと、税金を安くする特例が使えなくなってしまうからです。

 こういう話をすると「うちは、仲がいいから遺産分けでもめたりしないよ」と言う人がいますが、相続は仲が悪くなくても、欲張りな人がいなくても、もめることがあるのです。

 よくあるのは、介護が絡んだ時の相続です。

 東京に住むAさん一家は、地価の高いところに住んでいたので、自宅の土地の価値だけで8000万円。それ以外には、現金など2000万円くらいの財産がありました。母親はすでに他界していて、その後父親が亡くなっています。残された子どもは姉と弟。姉は独身で父親と同居して父親の介護をしていました。姉が勤めていた会社を辞めて、介護に専念すると決めた時、弟は「お父さんの面倒をみてくれるなら、相続の時は姉さんがたくさんもらったらいい」と言ってくれたといいます。でも実際お父さんが亡くなると、財産の分け方でもめてしまったのです。

 介護でよくあるのは、実際に介護をした人としていない人では介護に対して感じる負担感が違うということ。姉は「会社を辞めてまで大変な介護を1人でしたのだから、すべての財産をもらってもいいくらいだ」と思っていましたが、弟は「介護っていっても、デイサービスを使ったりして、そんなに大変ではなかったはず。法定相続分よりちょっと多いくらいで十分だろう」と考えたのです。

 結果、申告期限までに話し合いがつかず、770万円の相続税を払うことになってしまいました。実は、もめずに相続できれば相続税は、ゼロで済んだ可能性もあるのです。

遺産の分け方でもめると税金圧縮効果のある特例が使えなくなる!

 本書で詳しく紹介していますが、相続税には税金を安くするいくつかの特例があります。よく利用されるのが、「配偶者の税額軽減」と「小規模宅地等の特例」。どちらも数百万~数千万円単位での、税金圧縮効果が見込めます。

 しかし、これらの特例を受けるためには、「申告期限内に遺産分割を終えて、相続税の申告書を提出する」ことが必要です。相続税の申告期限は、相続が起きた日の次の日から10ヵ月以内。実際この10ヵ月というのは、バタバタしているうちにあっという間に過ぎてしまいます。

 この間に遺産の分け方が決まらなければ、特例が受けられません。その結果、特例が使えれば払う必要のなかった高額な相続税を支払わなければいけないことになりかねないのです。

(ただし、税務署に「申告期限後3年以内の分割見込書」[3年以内には財産分けをします! という届出書]を提出して3年以内に分け方が決まれば、特例を受けた相続税の申告をやり直し、税金を取り戻すことはできます)。

分け方が決まらないと銀行預金も下ろせない

 財産の分け方が決まらない場合、他にも困ったことが起こります。銀行口座などが動かせなくなるのです。銀行口座は、持ち主が亡くなったことがわかると凍結されて、誰が預金を相続するか、はっきりするまでは口座を動かせなくなるのです。相続法の改正で、相続人であれば預金の一部を仮払いできる制度が創設されましたが、下ろせるのは一つの金融機関あたり最高でも150万円までです。

 相続人全員の同意書が取れれば、相続する人が決まる前でも預金を下ろすことはできます。ただ、遺産分割でもめているような場合、そういった同意書を取ることさえ難しくなる可能性が高いですよね。そうなると、高額な相続税はかかるわ、払おうにも口座のお金は下ろせないわで、散々な目にあいます。

 家族と不仲になった上にお金で苦労をするのはとても辛いことです。そうならないためには、遺産分割で生前に家族みんなが納得できるような財産の分け方を相談し、親御さんに「遺言書」を残してもらうようにしてほしいと思います。「定年前後のお金の正解」では、定年前後のこのタイミングで、話し合っておくべき相続のことや、打つべき手を紹介しています。ぜひ参考にしてください。